腰痛の原因は
実は「体の内側」にあった
「インナーマッスル」耳にしたことはあっても、実際にどんな働きをしているのかは、あまり知られていないのが現実です。ですがこの体の内側を支える筋肉は、腰痛や姿勢の崩れ、慢性的な疲れやすさなど、日常で感じる不調の多くと密接に関わっています。
急性のぎっくり腰でも、慢性の腰痛でも、インナーマッスルを正しく使えるようになることで、トレーニングや体操だけで驚くほど症状が改善するケースも珍しくありません。
その鍵を握るのが、「腹圧(ふくあつ)=腹腔内圧」のコントロールです。腹圧を安定させるために働くのが、以下の4つの深層筋からなる「インナーユニット」と呼ばれる筋肉群です。
腹圧をコントロールする
4つの中心筋
- 横隔膜(おうかくまく)
呼吸を担う筋肉で、腹腔の「天井」。息を吸うときに下がり、腹圧を高める基盤を作ります。
- 腹横筋(ふくおうきん)
お腹をぐるっとコルセットのように包む筋肉で、腹圧の「壁」。腹圧を直接高め、体幹を締める役割を担います。
- 多裂筋(たれつきん)
背骨の際を支える深層の背筋。腹腔の「背面」から支えることで、体幹の安定性を高めます。
- 骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)
腹腔の「底」を構成し、下から圧力を支える役割。排尿・排便機能にも関わります。

この4つの筋肉が協調して連動することで、呼吸・姿勢・動作を安定させるための適切な腹圧が維持されます。いずれかの機能が低下すると、コア(体幹)の安定性が損なわれ、腰痛や姿勢の崩れ、疲労感といった問題が生じやすくなります。
腸腰筋が支える「下腹部の安定」
腸腰筋(ちょうようきん)は、腰椎(背骨の腰の部分)から骨盤を通って、太ももの内側の骨(大腿骨)につながる深層筋です。実はこの腸腰筋、歩く・走るなどの動きだけでなく、体幹の下部を内側から安定させる重要な役割を担っています。

なぜ腸腰筋が重要なのか?
現代人に多い「反り腰」や「ぽっこりお腹」の背景には、腸腰筋の機能低下が潜んでいることが少なくありません。
腸腰筋は、背骨の前側から脚にかけて身体を“内側から吊り上げる”ような構造になっており、この筋肉がしっかり働くと、骨盤が正しい位置に収まり、下腹部の安定感が生まれます。
一方で、この筋肉が弱ってしまうと…
- 骨盤が前に倒れて「反り腰」に
- 下腹部が突き出て「ぽっこりお腹」に
- 歩くたびに骨盤がグラグラし腰に負担がかかる
このような不調に繋がりやすくなります。
腸腰筋は、腹筋のように表面にある筋肉ではないため、「意識」ではうまく動かせないのが特徴です。腹圧やインナーマッスルと連動するような形で鍛えていくことで、腸腰筋の本来の機能が目覚め、自然と姿勢や動きの質が高まっていきます。
多裂筋は、背骨を “軸” で支える
多裂筋(たれつきん)は、背骨のすぐ近くを縦に走っている深層筋で、首から骨盤までを細かく支えるように張り巡らされている筋肉です。とくに腰のあたりでは、骨盤と背骨をつなぐ「安定の土台」として機能しており、体幹の後ろ側から姿勢や動作のブレを抑える“縁の下の力持ち”として働いています。
なぜ多裂筋が重要なのか?
日常の動作の中で、背骨はほんのわずかに前後左右に揺れながら動いています。
このとき、多裂筋がピンポイントで背骨の角度を微調整し、常に中心軸を維持してくれているのです。
もし多裂筋が働かなくなると…
- 背骨を正しく支えられなくなる
- 骨盤が傾き、反り腰や猫背が悪化
- 動くたびに「グキッ」とした違和感や痛みが出やすくなる
このような問題が起こります。とくにギックリ腰や慢性的な腰痛の大きな要因になることが多く、見逃されがちなキーマッスルです。

多裂筋を正しく目覚めさせるには、単体で鍛えるのではなく、運動全体の中で働く状況を作ることが大切です。
多裂筋は、腹横筋や骨盤底筋、腸腰筋などと同じくインナーユニットの一員です。表面的な筋トレで背筋を鍛えようとしても、多裂筋には届きません。むしろ “がんばらないこと” が重要で、静かな姿勢保持や、正しい呼吸とセットにした地味なエクササイズが最も効果的です。
「背中が張る」「いつも腰が重だるい」そんな方こそ、多裂筋が適切に機能していないサインかもしれません。しっかりと軸が通った体に変えていくには、この見えない筋肉の目覚めが欠かせないのです。
一般的な体幹トレーニングは、全身運動になることが多いため、弱った筋肉はほとんど動かず、他の筋肉が代償的に働く傾向があります。
結果として、効果を感じにくいばかりか、かえって痛みが悪化するケースもあります。正しい順序と方法で、体を“再教育”していくことが大切です。