座りすぎ症候群は、
無自覚に体の機能を奪う
座りすぎていませんか?
コロナパンデミック以降、リモートワークや在宅勤務が増え、長時間のデスクワークが日常化しています。
自宅で仕事をすることで通勤時間が減るなどの利点もありますが、同時に動く機会が減り、体への悪影響が増加していることも見逃せません。
実は、「座りすぎ症候群」と呼ばれる現象が、私たちの健康に深刻な影響を及ぼしていることをご存じでしょうか?
長時間座り続けることが体にとっては「毒」になります。そして、「座り続ける」という毒の恐ろしいところは自覚症状がないこと。
知らぬ間に侵され、どんどん体を弱体化させていき、ぎっくり腰、寝違え、肩こり、腰痛、膝痛、足の痛み、姿勢の乱れ、体力の低下などに留まらず、私たちの健康寿命を奪っていきます。
座りすぎは
健康寿命を縮める
サルコペニア(筋肉減少症)、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)、フレイル(虚弱症)は、なにも高齢の方の問題というわけではありません。便利な生活で体を使う時間が減っていくと、こういった問題が40代、50代、60代といった比較的若いうちから影響を及ぼしていきます。
サルコペニア、ロコモ、フレイルとは
サルコペニア、ロコモティブシンドローム(ロコモ)、フレイルは、それぞれ独立した概念ですが、相互に関係している健康問題です。
サルコペニアは、主に筋肉量と筋力の減少を主に示し、進行するとロコモやフレイルのリスクが高まります。
これらは高齢の方に起こりやすい健康問題で、サルコペニア➡︎ロコモ➡︎フレイルと、連続的に進行することがよくあります。
サルコペニア
(筋肉減少症)
サルコペニア(筋肉減少症)は、加齢に伴った筋肉量および筋力の減少を指します。
主に、筋肉量低下と機能低下を伴い、自立的な日常生活動作や歩行運動機能に大きな影響を与えます。加えて、ロコモティブシンドロームやフレイルの要因になります。
ロコモティブシンドローム
(運動器症候群)
ロコモティブシンドロームは、ロコモという表現で浸透していますが、運動器にまつわる移動障害を指します。
運動器(骨、関節、筋肉、神経など)の障害により、歩行の速度やバランス能力が低下し、日常生活での移動が困難になることが特徴です。
フレイル(虚弱症)
フレイル(虚弱症)は、肉体的、精神的な弱さに加え、社会的な自立生活が困難な状態を示す概念です。主に高齢者に特有の状態であり、サルコペニアやロコモティブシンドロームの症状を伴うことで、自立生活に障害を抱え、活動量が低下します。
健康状態のバランスを崩しやすく、転倒、入院、要介護状態への移行リスクが高まります。
これらの症状が進行すると、日常生活の質が著しく低下するだけでなく、健康寿命を大きく縮めることにつながります。
健康寿命とは、ただ長く生きるだけではなく、自立した生活を送り、身体的にも精神的にも健康でいられる期間を指します。
しかし、長時間座り続けることで筋力の低下や運動機能の衰えが進行すると、早い段階で介護が必要になったり、病気がちになったりするリスクが増加します。
健康寿命を維持するためには、体を定期的に動かし、筋力や機能を保つことが不可欠です。体を動かさない生活は、知らず知らずのうちに私たちの健康寿命を縮めてしまう「見えない毒」と言えるでしょう。
このリスクを回避するには日常的な活動量を増やすしかなく、もっとも手っ取り早くできることは、「移動する」こと。これが解決の鍵になります。
日本人の座位時間は世界最長
スポーツ庁のWeb広報マガジンによると、日本人の平均座位時間が世界最長の7時間であることが、シドニー大学の調査で明らかになっています。長時間座り続けることで、心筋梗塞や脳血管疾患、糖尿病、がん、認知症などのリスクが増加し、1日に11時間以上座っている人は、4時間未満の人と比較して死亡リスクが40%高まるといわれています。
さらに、WHOは「座りすぎが年間200万人の死因になる」と発表しており、座りすぎは喫煙や飲酒と同様に、健康に深刻な影響を及ぼす問題であるとされています。
座り続けるという「毒」
そのリスクとは
「座り続けるという毒」は、現代のデスクワーク中心のライフスタイルにおいて見過ごせないリスクです。ここでは、そのリスクを具体的に解説し、どのような影響が体に及ぶのかを見ていきましょう。
1. 血流の停滞と循環器への負担
デスクワークで長時間座り続けると、血流が滞りやすくなり、特に脚に血液が溜まりやすくなります。この状態が続くと、血栓ができるリスクが高まり、最悪の場合、深刻な症状を引き起こす可能性もあります。
座りっぱなしの生活は、循環器に大きな負担をかけ、健康全般に悪影響を及ぼします。
2. 筋肉の衰えと姿勢の悪化
長時間の座位姿勢は、筋力の低下にも繋がります。特に、コアマッスル(体幹)が使われにくくなることで、背中や腰の筋力が衰え、姿勢が悪くなります。
この結果、慢性的な痛みやコリが起こる可能性が高まります。
リモートワークや在宅勤務では一度座り始めると、そのまま数時間動かないこともあり、筋肉の衰えが加速することもあるため注意が必要です。
3. 生活習慣病のリスク増加
研究によれば、1日に8時間以上座り続けると、肥満や糖尿病、心疾患などのリスクが大幅に高まるとされています。座る時間が長くなるとエネルギー消費が減少し、代謝が低下します。
さらに、座り続ける生活は、早期死亡のリスクを高めるとも言われています。適度な運動や立ち上がる習慣を取り入れ、こうしたリスクを軽減することが大切です。
厚生労働省の「座位行動」という座りすぎリスクを報告する資料によると、「健康増進施設などで運動プログラムを定期的に実施していても、生活の中で座りすぎている場合は、座りすぎていない人と比較して、寿命が短く、肥満度が高く、2型糖尿病罹患率や心臓病罹患率が高いことが報告されています。」とされています。
厚生労働省「座位行動」からの一部引用
4. 神経系への影響と脳機能の低下
長時間座り続けると、体だけでなく神経系への悪影響も生じます。座ったままでの仕事では、感覚刺激が少なくなり、五感を通じた触覚や振動、温感・冷感の刺激が不足します。これが続くと、脳への刺激量が減少し、脳の働きが低下してしまう可能性があります。
特に長時間、座りっぱなしの状態が続くと、思考力や集中力、記憶力の低下がみられることがあるため、定期的な運動が脳機能の維持にも重要です。
5. 活動量の低下と睡眠への影響
座り続けることによる活動量の低下は、睡眠の質にも悪影響を与えます。活動量が減少することで、体が十分に疲れず、就寝時に深い睡眠が得られにくくなります。また、座り続けることで筋肉が硬直し、血流が滞るため、筋肉の疲労やこわばりが残りやすくなり、リラックスできない状態が続きます。
これにより、睡眠の質が悪化し、十分な休息が取れないことがあるのです。慢性的な睡眠不足や質の悪い睡眠が続くと、代謝機能や免疫機能にまで影響を与え、さらなる健康リスクが高まる恐れがあります。
長時間座り続けることによるリスクは、私たちの身体や脳、そして睡眠にまで広範囲に及びます。これを防ぐためには、日常生活の中で意識的に「移動する」ことが重要です。
デスクワークやリモートワークの合間に、こまめに立ち上がり、ストレッチや軽い運動を取り入れ、健康を維持する習慣をつけることが、健康寿命を延ばすための鍵となるでしょう。
まずは「移動する」だけ
移動が体に与えるプラス効果
長時間のデスクワークは体に大きな負担をかけるため、定期的な「移動」を取り入れることが必要です。ここでは、簡単に実践できる「移動」の工夫を3つご紹介します。これらを日常のルーチンに加えるだけで、体の疲れを減らし、集中力を持続させる効果が期待できます。
部屋を離れてリフレッシュ!
作業場所を変えて、
脳と体を刺激する
いつも同じ場所で仕事をしていると、知らず知らずのうちに体が固まってしまい、集中力も持続しにくくなります。そこでおすすめしたいのが、定期的に作業場所を変えることです。
たとえば、自宅の作業スペースからカフェや図書館、公園などに移動して仕事をするだけで、気分転換にもなり、血流が促される効果があります。
加えて、移動することで自然と体を動かす機会も増え、体が固まりにくくなるでしょう。リフレッシュした環境は脳にも新しい刺激を与え、集中力がアップし、生産性も向上します。
実践アイデア:
- 自宅、カフェ、図書館、公園などの異なる場所で仕事をローテーション
- 時には立ち作業も取り入れて、座る時間を減らす
運動を生活に取り入れよう!
インターバルを設けて
体をリセット
デスクワークが続くと、どうしても座りっぱなしになり、体のこわばりや血行不良が進行してしまいます。
そこでおすすめなのが、定期的なインターバル運動です。水分を補給すうイメージで、運動を補給しましょう。少しの時間でも体を動かすことで、体全体の血流が改善され、筋肉の緊張をほぐすことができます。
次の項目で述べる33分33秒の法則!33分33秒ごとにインターバルで体を動かすことを10分〜15分程度取り入れるだけで、座り続けることによる体の不調を防ぐことが可能です。
おすすめインターバル運動:
- 足踏み運動:その場で軽くステップ!リズムよく足踏みをするだけで、下半身の血流を促進し、体幹のコアマッスルの働きを活性化します。
- 骨盤と背骨の揺らし運動:腰を左右に揺らして骨盤や背骨を軽く動かすことで、脊髄を介して脳が刺激され、インナーマッスルが活性化。体を支えるための腹圧が回復します。
- 万歳体操:両手を頭の上にあげてたり、振り下ろしたりすることで、肩周りや背中の筋肉が伸び縮を繰り返し、体のこわばりを解消します。
考え事や電話は立ちながら!
立ちながらできることは
立ってやる
長時間座り続けることが体に与える悪影響を避けるためには、立つ機会を意識的に作ることが大切です。
電話をかける時や考え事をする時に、あえて立って歩き回るようにすると、自然に体を動かすことができます。
座ったままよりも、立って動きながら話したり考えたりすると、血流が良くなり、疲労感も軽減されます。また、歩きながら考えると、頭の回転が速くなるとも言われています。仕事のアイデアが浮かびやすくなるかもしれません。
実践アイデア:
- 電話をかける際には立ち上がり、部屋の中を歩き回る
- 考え事やブレインストーミングは、歩きながら行う
これらの工夫を取り入れることで、デスクワーク中心の生活でも無理なく体を動かし、健康的な生活を維持することが可能です。長時間座り続ける「毒」を少しでも減らし、体も心もリフレッシュしながら効率的に仕事を進めていきましょう。
33分33秒の法則
作業を行う際のインターバルの取り方について、さまざまな方法がありますが、特に注目したいのが「33分33秒の法則」です。この法則は、コピーライターのユージン・シュワルツさんが提唱した集中力を高めるための作業インターバルのテクニックです。
33分33秒の法則の基本
この法則では、まず33分33秒の集中作業を行い、その後に10分から15分の休憩を挟むというサイクルを繰り返します。この方法は、シンプルで分かりやすいため、習慣化しやすいのが特徴です。
33分33秒という時間設定は、まとまった作業を効率的に行うのに適しており、集中力を保ちながらも疲労を軽減する効果があります。
ポモドーロテクニックとの違い
有名な「ポモドーロテクニック」も同様の集中法ですが、こちらは25分間の作業後に5分間の休憩を取り、このポモドーロを4回繰り返した後、30分程度の長い休憩を取るというものです。
この手法はイタリアのフランチェスコ・シリロさんが提唱しており、「ポモドーロ」とはイタリア語で「トマト」を意味します。この名前は、シリロが学生時代に愛用していたトマト型のキッチンタイマーから来ているそうです。
「33分33秒の法則」「ポモドーロテクニック」どちらの手法も、それぞれに利点がありますが、33分33秒の法則は特にシンプルさが魅力です。自分に合ったインターバルを見つけて、集中力を高めるための作業法として取り入れてみてはいかがでしょうか?
現代では、
座ることは避けられない…
現代の生活において「長時間座ること」は、なかなか避けられない現実があります。
だからこそ、体を動かす工夫を取り入れることが大切で、生活の場を運動のフィールドに変えてしまうアイデアを提案してきました。
ひとまず、手っ取り早く運動を生活に取り入れるには「移動する」こと。もちろん移動は、車や自転車ではなく歩くのが一番です。
「移動」を当たり前のように生活に組み込み、無意識かつ定期的に体を動かすことで、座り続けることによる体のダメージを軽減して健康を守りましょう。
リモートワークや在宅勤務でも、体と心のバランスを取りながら、効率的に仕事を続けることが可能です。