自律神経の乱れが安眠を妨害する
私たちが生きていくには、自律神経の役割は絶大なものです。
何も意識しなくても体温、呼吸、心拍、血圧、内臓機能、姿勢などの調節は自律的に行われています。それは絶えず神経系が働いているからです。
各器官に指令を伝える神経の一部が疲労したり働くなくなれば、筋力の低下、血流量の低下、体温の低下など全身の機能が低下すことになります。
睡眠のリズムにおいても例外はなく、本来の自律的なプログラムが正常に機能していれば自然に寝れるはずですが、何らかの要因によってそのメカニズムの働きが乱れてしまうことが原因です。
睡眠障害を改善するためには、全身の司令塔である神経機能の正常化が欠かすことができない重要な要素です。
寝ているのにスッキリしない
不眠症とは、睡眠不足とは違い「十分に眠る時間を確保はできているが、熟睡感が無く十分な睡眠が取れていない状態のこと」を指します。
一方睡眠不足は、「十分に眠る時間がないことによって睡眠時間が不足すること」を指します。
不眠症にも様々な分類がありますが、一般的に陥るのは「適応障害性不眠症」というものです。不安や悩み、気になることや精神的なショックなどストレスを感じている時に起こりやすく、誰でも一度や二度は経験があるような不眠症状です。
この不眠症はほとんどが一過性で、長く続くようなことはありません。ストレスの原因がなくなればまたいつものように眠れるようになります。
夜が怖い、寝るのが怖い、寝ることの不安が頭から離れない
眠れないことのへの不安や恐怖がトラウマとして残ってしまうことで不眠が長引いてしまうこともあります。このような不眠を「精神生理性不眠症」と言います。
眠る時間が近づくにしたがって眠ることへの不安が募り、今日は寝れるかどうかばかり考えて、リラックスして過ごせなくなってしまいます。
結果として、質の良い睡眠ができなくなってしまうことで更なる不安を呼び悪循環に陥ってしまいます。
不眠症の原因は主に3つ
入眠障害、熟眠障害、早期覚醒の3つです。入眠障害は寝付きの悪さを指します。熟眠障害は眠りが浅く、途中何度も起きてしまうこと。
早期覚醒は目覚めが早いこと。最近では、入眠障害と睡眠維持障害の二つに大別するように変わってきています。
入眠障害「寝つきが悪い」
- 心配事や悩みで考え事がある
- 眠れないことに対する不安
- 眠くなる前からベッドで過ごしている
- お酒やタバコ、刺激の強い食べものを取っている
- ベッドに入る前に興奮する映画やドラマ、ゲームをしている
- 日中から横になったりして過ごしている
ベッドに入る直前まで活動的に過ごしていれば、いざ眠ろうとしても脳が眠るための準備が整っていないためすぐに寝付くことはできません。
心配事や不安などがあっても目を閉じても頭の中で考え事をしてしまうため、脳がリラックスできず入眠の妨げになります。日中の活動が不十分でも眠気を感じづらくなる原因になります。
熟眠障害「途中で起きてしまう」
- トイレが近い
- 睡眠時に発症する病気がある
- 寝具が合っていない
- 日中からベッドで過ごしている
- 日中にあまり動いていない
- 電気やテレビが点けっぱなし
寝る直前にアルコールやお茶、コーヒーなどのカフェインの入った飲料を取っていれば利尿作用があるためトイレが近くなります。
睡眠は浅い眠りと深い眠りを交互に繰り返すため、浅い眠りの時は少しの刺激で起きてしまうこともあります。
当然、音や光、寝具の不具合があれば寝心地が悪く目を覚ましやすくなってしまいます。
早期覚醒「寝起きが悪い」
- 睡眠時間が短い
- 睡眠時間は取っていても熟睡できていない
- 体内時計が狂っている
- 体がまだ目覚める準備ができていない
- うつ病などの病気による影響
- 睡眠導入剤の薬効が残っている
レム睡眠とノンレム睡眠というのを聞いたことがあるかもしれませんが、睡眠には周期性があります。
目覚めに適しているのは比較的眠りの浅いレム睡眠です。一方ノンレム睡眠時は脳が休眠状態にあるため、そのタイミングで起きてしまうと目が覚めても非常に目覚めの悪い状態となるでしょう。
うつ病の気分障害も朝に起きやすく寝覚めの悪い疾患です。合わせて睡眠導入剤の薬効が残っていれば薬の作用で覚醒しづらい状況ですのでスッキリ目覚められない原因となります。
睡眠の基本的なメカニズム
睡眠は環境や習慣、ストレス、体質など影響が人それぞれに差があるため非常に個人差が大きい生理現象です。
それでも私たち人間が活動するにおいて基本的なメカニズムとして備わっています。
レム睡眠とノンレム睡眠
レム睡眠のレムとは「Rapid Eye Movement」とのことで、その頭文字を取ってREM(レム)と呼ばれています。
和訳すると「急速眼球運動」となります。私たちの脳は、眠気が強い時には一定方向へ眼球を固定することができなくなるため目がゆっくりと動いてしまい、焦点が合わなくなったりしてしまいます。
レム睡眠は体は休んでいるのに、脳は活動している状態です。
眼球運動以外の活動は見られず、全身の筋肉は弛緩している状態です。夢を見るのはレム睡眠時に見ることが多いようです。
ノンレム睡眠は、脳が休息状態にあるのが特徴です。ノンレム睡眠には3つの相があり、浅いノンレム睡眠、中間相のノンレム睡眠、深いノンレム睡眠の3つです。
一番深いノンレム睡眠の時期では、小さな物音などで目を覚ますことはなく、ホルモンの分泌などもこの時期が多くなります。
レム睡眠とノンレム睡眠は60分〜120分周期で交互に出現していて、睡眠の前半にはノンレム睡眠が多く、明け方に向かうにしたがってレム睡眠が多く現れるようになります。
ヒトの一晩の睡眠の特徴は、早い段階で深いノンレム睡眠(深い睡眠)が現れ、その後、覚醒〜レム睡眠〜ノンレム睡眠のサイクルを3回から5回繰り返します。
それぞれの周期に応じ、ホルモンの分泌など生理的な働きが起こっています。
睡眠の役割は主に5つ
脳の休息
人間が日々生活する中では、脳の高次脳機能が重要な役割を果たしています。
認知、知覚、記憶、学習、思考、判断などを常に行い、感情を含めた精神機能によっても休むことなく使われるため、脳は疲労していきます。睡眠は、その疲労した脳を回復させるための重要な時間になります。
体の休息
まず、体を動かさずにじっとしていることで、エネルギーの消費が抑えられます。
日中の活動中の肉体や内臓の疲労を回復させるために、成長ホルモンなどが分泌されることによってアミノ酸からタンパク質が合成され組織の修復なども行われています。
精神の安定
人は毎日何らかのストレスにさらされながら生活をしています。
そのため、常に体の中ではストレスから身を守るために、ホルモンや神経によって様々な反応を起こしてます。
免疫を低下させ様々な不具合を引き起こすストレスの蓄積を抑えるためには睡眠が重要な役目を果たしています。
記憶の定着
記憶のプロセスにおいて、睡眠が重要な役割を果たすのは、覚えたことを長期記憶するための固定化というプロセスです。
それには過去の様々な情報と統合したり、いらない情報の消去などが含まれ、その過程を経て必要な時に思い出せるようになります。そのプロセスをエンコーディングと言います。
ホルモンの分泌
夜間に分泌されるホルモンは多くありますが、その代表が成長ホルモンです。
その他にも、母乳の分泌を促進するプロラクチン。時間帯によって分泌されるコルチゾールは起床し活動するための準備として血圧、血糖値を上昇させます。
様々なホルモンが寝ているときにも分泌されていることで、体の疲労回復がスムースに行われています
不眠とうつ病
不眠がある人はうつ病になりやすく。うつ病の症状に不眠がある。
うつ病患者さんの90%以上が睡眠障害を訴えるほど、不眠とうつ病は密接に関係しています。眠れない、寝た気がしない、常に頭がスッキリしない。
その中でも多いのが、目が覚めるのは早いが起きる気力がわかないというもの。
うつ病の朝の辛さは、副腎から分泌されるコルチゾール、別名ストレスホルモンが関与しています。
コルチゾールは、本来であれば睡眠のリズムとは関係なく明け方に分泌され、起きるために必要な血糖値や血圧の上昇を行うホルモンです。
それと同時に、ストレスに対応するための抗ストレスホルモンでもあります。
うつ病患者さんは、日頃から強いストレスがかかり続けた結果、コルチゾールの分泌過多になり副腎が疲労していると考えられています。
最近では「副腎疲労」(アドレナルファテーグ)とう名称も知られるようになってきています。
うつ病患者さんは、今まで普通に出来ていたことができなくなる。
そう言ったことから自己嫌悪になってしまいことが多く、ネガティブな感情がより強くなりさらにストレスを溜め込みやすくなってしまう傾向があります。
うつ病を改善させるためには、絶対的に睡眠の質を上げる必要があります。それには、コルチゾールが正常に働ける環境にすつためにストレス管理がとても重要です。
もちろん、抗不安薬にはストレスを抑制する効果はありますが、それに頼りきらずに生活を見直すにも目を向けていくことが大切です。
高齢者の不眠
不眠は高齢になるにつれて増加する傾向にあり、不眠症患者さんの30%が60歳以上の方であるというデータも出ています。
高齢者の不眠の中では寝つきの悪さよりも、中途覚醒(起きてしまう)事の方が多く、その原因は睡眠中の不快感というのが挙げられます。身体的なもの精神的なものも含めて様々です。
高齢者の中途覚醒の原因
- 夜間頻尿
- 肌のかゆみ
- 痛みや痺れ
- 睡眠時無呼吸症候群
- ムズムズ足症候群
- 周期性四肢運動障害
このような原因以外にも、
- 体力の低下に伴う、日中の活動の低下。
- ベッドで過ごす時間が長くなる。
- 持病の治療で服用している薬の作用など。
- 退職、核家族化、死別など社会との関わりが減ることによるストレス。
これらのような原因が複雑に組み合わさることによって、高齢の方が不眠に悩むことが増えるようになると考えられます。
実は、ある調査では最も睡眠時間が短いのは40代の女性だったそうです。その調査によると最も睡眠時間が長いのは70代以上の男性という結果でした。
ただ、この結果はベッドの中で過ごしている時間をもとに出された結果であって、実際の脳波に基づいた測定ではありません。
他の調査では50歳を超えると入眠までに時間がかかるようになり、中途覚醒も多くなるようで、総合的に考えると高齢者はベッドにいる時間は長くても実際の睡眠の質は加齢に伴って低下してくと考えられています。
高齢者の不眠が全年代に占める割合が多いのは、加齢に伴う睡眠の性質が変化することを病気と捉えてしまうことによって、見かけ上で多くなっているのかもしれません
睡眠薬は安全?
睡眠を促進する合成薬が出来たのは、今からおよそ117年前である1903年。バルビツール酸で合成された「バルビツール」という薬です。
その後、1912年に「フェノバルビタール」が使われるようになり効果が認められたそうです。
その後にも後発のバルビツール酸系の薬が市販されていきました。ただ、バルビツール酸系の薬剤には欠点があり、依存性があり、治療に用いる量と致死量の幅が狭いことでした。
バルビツール酸は、脳の神経細胞の塩素イオンチャンネルに作用することで細胞の活動を抑制することで眠気を誘います。ただ、多量に服用すると呼吸が抑制されることもあり危険な面もありました。
その後、現在も用いられるバルビツール酸の問題点を克服した「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」が登場しました。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、体内にもともとあるGABAというアミノ酸に作用することで自然な睡眠を誘発するための薬です。
バルビツール酸系に比べて依存性が少なく、安全性の高い薬と言われています。それでも筋弛緩作用などがあり、脱力や転倒を起こしやすいため高齢の方には「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」が用いられるそうです。
睡眠薬の種類
睡眠薬に限りませんが、薬剤は30分から1時間程度で血中の薬物濃度が最大になり、代謝されての濃度は低下していきます。
その作用時間を表す指標として血中半減期(血中濃度が半分になる時間)があります。
睡眠薬は、血中半減期によって超短時間作用型から長時間作用型に分けることができ、入眠障害だけであれば超短時間作用型を用いたり、熟眠障害や中途覚醒などでは中/長時間作用型を用いるそうです。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、筋弛緩作用や抗不安作用が少ないため重度の不眠症でなければまずはこのタイプから用いることも出来るようです。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬には作用タイプが分かれている。
【超短時間作用型】
ハルシオン®︎、(※マイスリー®︎錠、アモバン®︎錠、ルネスタ®︎錠)
【短時間作用型】
レンドルミン®︎、エバミール®︎錠、ロラメット®︎錠
【中間時間作用型】
サイレース®︎錠、ロヒプノール®︎錠、ユーロジン®︎錠、ネルボン®︎錠、ベンザリン®︎錠
【長時間作用型】
ドラール®︎錠
※非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
この他にも、メラトニン受容体作動薬、抗精神薬、鎮静系抗うつ薬、抗不安薬など様々な薬があり、病気、症状や病態などにもよって併用することもあるようです。
現在用いられている睡眠薬は、お酒などよりも良い効果が得られほとんどが安全なものです。
ただ、不眠症治療は薬だけに頼って進めることは推奨されていません。他の方法と合わせて進めていくことで、着実に改善に向かっていくと考えらています。
睡眠薬の副作用(ベンゾジアゼピン系睡眠薬)
持ち越し効果
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は翌朝以降にも薬の効果が残ることがある。
作業能力の低下だけでなく、高齢者などではふらつによる転倒などが起きやすくなります。
自動車や自転車の運転。機械の操作などを日常的に行なっている場合は特に注意が必要となる。状況によっては薬効が短いものに変更したり、減薬が必要になる場合もある。
睡眠薬の持ち越し効果
- 眠気
- ふらつき
- 頭痛・頭重感
- 倦怠感
- 脱力感
健忘
薬効が続いている時間の記憶が部分的に思い出せないなどといったことが起こる。
薬を服用してから寝付くまでの間、中途覚醒した際の記憶、持ち越し効果により朝起きてからも薬効が残っている場合には、その間の記憶の一部が思い出せないといったことがあります。
本来睡眠薬とアルコールの飲み合わせは禁忌ですが、薬効のあるタイミングでアルコールを飲んだ場合に起こることが多い。睡眠薬の量を守ると共に、服用後は速やかに床につくことが求められる。
奇異反応
極めて稀だそうですが、本来目的とする反応と反対の作用が現れることがある。
脳の病気があったり認知症がある場合に多く、意識障害を伴って攻撃的になったり、動揺や錯乱などが起こることがあるため犯罪行動と結びついてしまう可能性もゼロでは無いため、医師の指導をしっかりと守って服用することが求められる。
反跳現象・リバウンド現象
薬の中止や中断。服用量が減った場合などに起こり、投薬を開始する前以上に一時的に強く症状が現れてしまうことがあります。
作用時間の短い睡眠薬を多量に服用していた場合などに起こりやすく、不眠や不安が強く出現したり、頭痛、いらいらや焦燥感など様々な症状が現れるため注意が必要となる。
薬の服用に関しては、医師としっかりと話し合う必要があります。
筋弛緩作用
特に高齢者では影響が大きく出やすいため、服用後にトイレなどに起きた際に力が入りにくく、ふらつきによる転倒で骨折などの大きな怪我につながることが懸念される。
この点が改良された筋弛緩作用の少ない非ベンゾジアゼピン系睡眠薬などもあるため、服用する薬については医師と薬剤師の説明を聞き、相談をしっかりと行う必要がある。
安眠のために必要なこと
不眠を解消し安眠できる生活を取り戻すためには、多くの問題と向き合っていくこが必要になってきます。
- ストレス管理
- 日中の過ごし方
- 寝るまでの過ごし方
- 食生活
- アルコール
- 習慣
- 癖
- 薬との付き合い方
全てを一気に解決することはできませんが、影響の大きいものかひとつひとつ解決していくことで着実に睡眠をコントロール出来るようになり、睡眠の質が上がることは人生においてとても有利に働きます。
不眠による病気へのリスクを減らし、集中力が増し仕事の能率も上がります。生活に躍動感が出て、さらに日中の活動が楽しめるようになってきます。
不眠を改善し、安眠へのきっかけとして、頭蓋骨矯正による神経系のリラクセーション効果は大きな力になります。
バイオメカニクスに基づいた頭蓋骨矯正は、頭蓋骨の動きを通して脳硬膜の緊張を解放し、その場で全身のリラクセーション効果を得ることができます。
多くの方がその場で寝息をたてるくらい即効性が高く、再現性ある方法を体験してみて下さい。まずはちゃんと寝れることがどんなに素晴らしく有意義なことを思い出していただけるはずです。
自分の睡眠時間を具体的に把握してみる
睡眠時間は人それぞれ。毎朝スッキリ目覚められ、日中にも強い眠気を感じないようであればそれほど心配することもありません。
ただ、ヒトの感覚はいい加減で少なからず思い込みの部分もありますので、具体的には把握するためには日記をつける方法がおすすめです。
感覚に頼らず実際に記録してみると、あなたの睡眠が足りているのか足りていないのかが見えてくるだけでなく、対策が打てるようになります。
睡眠日記【PDF】※印刷してご利用ください
不眠症に陥る原因の一つに、生まれ持ったクロノタイプ(体内時計)と実際の社会生活のズレというものがあります。クロノタイプによって朝型か夜型かと言うのは決まってきます。
自分のクロノタイプとは異なるリズムで生活していれば、当然神経には蓄積疲労が溜まり正常な機能が果たせなくなってきます。
本来、睡眠時間や就寝時刻は自分のクロノタイプによって決めていくのが理想的であり、この多種多様な世の中で他人や一般論に合わせることは全くもって必要ありません。
クロノタイプについて詳しくは>【ブログ】増えるばかりの睡眠負債をご覧ください。