腹圧(IAP)とは、
お腹の中にかかる圧力
腹圧は、体幹を支える
「見えない安定力」
腹圧(IAP:Intra-Abdominal Pressure)とは、お腹の中にかかる圧力のこと。体幹を支える「見えない安定力」として、近年あらためて注目されています。
腹圧は、横隔膜・腹横筋・多裂筋・骨盤底筋といったインナーマッスルが連動することで生まれ、体幹の内側から背骨や骨盤を安定させるしくみです。
専門的には「IAP(腹腔内圧)」とも呼ばれ、いわゆる「体幹(CORE)」を内側から固定する役割を果たしています。
この腹圧がしっかり働くことで、手足の動きにブレがなくなり、日常動作やスポーツのパフォーマンスが大きく向上します。


よくある体幹トレーニングでは
腹圧は高まらない
腹圧を高めるには、一般的な体操や体幹トレーニングだけでは不十分です。
むしろ、ドローインのような意識的にお腹をヘコませる方法は、正しく理解されていないまま行われると腹圧を下げてしまうリスクすらあります。
一生懸命トレーニングしているのに腰痛や違和感が改善しないのは、こうした「間違った常識」による影響が少なくありません。
腹圧を正しく高め、体幹を安定させるには、「表面的な筋力」ではなく、「神経系の連動」を理解することが重要です。
まずは、腹圧と体幹に関する「よくある勘違い」を整理し、正しい知識で身体の機能性を高めていきましょう。
腹圧と体幹の違い
腹圧というのは、正しくは腹腔内圧と言います。腹腔は、横隔膜の下で主に消化器などの内臓が集まっている空間で、その内部にかかる圧力のことを腹腔内圧。すなわち腹圧です。
体幹は、四肢や首、頭を除いた部分のことを指します。つまり胸、腹、背中腰をひっくるめた胴体のことです。
- 腹圧:お腹の中(腹腔)にかかる圧力
- 体幹:手足や頭・顔面を除く胴体部分
厳密にはこのような違いがありますが、「腹圧が安定する」「体幹が安定する」と一般的に浸透してきているのでほぼ同義と捉えて問題ありません。
「腹圧」は、第3の骨格
腹腔は、上は横隔膜、横は腹筋群と腰筋、下は骨盤底筋と、筋肉で囲まれた空間です。
この内部に圧力がかかることで「腹圧」が生まれ、体幹を安定させています。腹部は骨に守られていないため、この腹圧が「内側から支える力」となるのです。
最近では、「筋膜」が第2の骨格として注目されるようになりました。
第1の骨格「骨」
第2の骨格「筋膜」
そして、この2つの構造から生まれ、すべての動作を支える「形のない骨格」こそが、「腹圧」です。
腹圧は「第3の骨格」ともいえる、体の深部で働く重要な安定システムです。

腹圧を高めるメリット
体幹の安定と
「動き出し」の質が変わる
腹圧(腹腔内圧)がしっかり働くと、体の内側から「支える力」が生まれます。
この内圧が背骨や骨盤を安定させ、体幹がしっかりと固定されることで、姿勢や動作の土台が整います。
体幹が安定すると、手足の動きにも無駄がなくなり、全身のパフォーマンスが向上。スポーツやトレーニングでは動き出しがスムーズになり、日常生活でも疲れにくくなるなど、明確な違いを感じられるようになります。

腹圧を高める5つのメリット
- 体幹が安定し、
姿勢が崩れにくくなる
背骨や骨盤を内側から支え、軸のぶれを抑える。 - 動き出しの質が向上し、
スムーズに動ける
準備反応(APA)が働き、反応の速さやキレが変わる。 - 手足の力が無駄なく伝わり、
パフォーマンスが上がる
体幹が固定されることで動作の出力効率が高まる。 - 関節や筋肉の負担が減り、
ケガや痛みの予防につながる
力の分散がうまくいくため、局所へのストレスが少なくなる。 - 疲れにくくなり、
日常動作がラクになる
効率的な動きができることで、エネルギーの消耗が抑えられる。
さらに、身体のブレや不安定さが減ることで、関節や筋肉への負担も軽くなり、慢性的な痛みやケガの予防にもつながります。腹圧を高めることは、ただ筋肉を鍛えるだけでは得られない、「動きの質」や「身体の使い方そのもの」を整える鍵。
スポーツではフォームや瞬発力が安定し、高齢者では転倒や疲労の予防に、産後の女性には体型の回復や骨盤の安定に、そして日常生活では姿勢や動作が自然に整い、動きやすくなる。
腹圧はあらゆる人の「基本動作の質」を底上げしてくれる、内側からの土台づくりなのです。
腹圧が低下すると
体は停滞する

普段こんなことありませんか?
- なるべく座りたい(立ってられない)
- 足を組みたくなる
- 寄りかかりたい
- 気づいたら寝転がっている
これらは腹圧が低下した人が思わずやってしまう行動です。
ヒトは腹圧が低下すると姿勢をキープするのが難しくなります。腹圧が低下したヒトは体を安定させる事ができなくなり、なんとかして動きを止めて安定させようとします。
座って重心を下げ接地面積を増やして安定させたり、足を組むことで筋肉や関節にテンションをかけてロックさせたり、寄りかかって重心を安定させたりします。
「無意識」に楽な感覚を求める
腹圧は姿勢を含めた、ヒトの体の動きを作り出す土台ですから、腹圧が働かなければ、筋肉が頑張るしかありません。当然疲れますから、筋肉をサボらせたくなります。
つまり、腹圧が低下したヒトは、楽になるような効果を無意識に求めています。
腹圧(コア)は、全身の運動を作り出す源であり、人の生命活動を支えています。寝返り、座る、立つ、歩く、走る、飛ぶなどの日常的な動作もすべて腹圧があるからこそできます。
腹圧(コア)が安定しないと人間は活動することができません。コアがまったく働かないと、寝返りすら難しくなります。
腹圧が働かないと、
慢性的な不調の原因になる

「なんとなく体がだるい」「姿勢が悪いと言われる」「肩や腰が張ってつらい」
なんとなく体がだるい
姿勢が悪いと言われる
肩や腰が張ってつらい
そんな慢性的な不調は、コア(腹圧)がうまく働いていないサインです。
腹圧は、体を内側から支える見えない安定力。腹圧が弱まると、姿勢を保つために筋肉が常に頑張り続け、いつでも体が緊張状態になります。
その結果、
- 慢性的な肩こり・腰痛
- ストレートネック・猫背
- 疲労感・倦怠感
その結果、
- 慢性的な肩こり・腰痛
- ストレートネック・猫背
- 疲労感・倦怠感
こうした不調が、意識のないところで、少しずつ積み重なっていくのです。
腹圧が正常に働くためには
姿勢を調整するのに重要な働きをしています。人には本来、腹圧のコントロールを無意識に行うためのシステムが組み込まれています。
それは、あらゆる運動を作り出すために姿勢を調節する必要があるためです。

姿勢調整は、人間の生命維持活動にとって必要不可欠なもので、その姿勢調節の中枢はちょうど大脳と脊髄の間の”脳幹”にあります。脳幹というのは中脳、橋、延髄といった循環、呼吸などをコントロールする自律神経の中枢です。
姿勢をコントロールするための腹圧は、重要な生命維持活動である姿勢調整の核として存在します。
腹圧をコントロールする
メカニズム
人の姿勢は、予測的姿勢調整(APA)という無意識の支えによって、常に調整されています。
この調整は、自分で「まっすぐ立とう」と意識して行っているのではなく、無意識のうちに脳と神経が感知し、先回りして働いているものです。
その代表的な仕組みが、APA(Anticipatory Postural Adjustment:アンティシパトリー・ポスチュラル・アジャストメント)というもの。日本語では、「予測的姿勢調節」や「先行随伴性姿勢調節」と呼ばれています。

けど、倒れませんよね?
これがAPAの働き!


APAのしくみを詳しく
APA(予測的姿勢調節)とは?
APA(Anticipatory Postural Adjustment)とは、これから起こる動きによって姿勢が崩れないように、あらかじめ身体を調整する無意識の制御システムです。
たとえば、腕を前に持ち上げる動作をすると、本来であれば重心(COG)は前方に移動し、身体は前に倒れやすくなるはずです。
ところが、実際には倒れません。
それは、脳幹を含む中枢神経が、動作の0.1〜0.05秒前にこの重心変化を予測し、体幹や下肢の姿勢筋に指令を出して姿勢を自動で安定させているからです。
この「先回りの姿勢制御」こそがAPAであり、図解のように「感覚入力 → 脳幹 → 体幹筋 → 下肢筋 → 足圧中心(COP)」へと連動して働いています。
APAの特徴
パーキンソン病や脳卒中などの神経疾患では、このAPA機能が低下し、転倒や動作の不安定さにつながることが知られています。APAは意識して行うものではなく、無意識に起こる自動調整機構です。
APAがうまく機能していると…
- 手足の動きがスムーズに始まる
- 動作がブレない
- 疲れにくい・動きに無駄が少ない
- 呼吸と姿勢が連動している感覚がある
逆に、APAが機能しないと…
- 「動き出しでグラつく」「踏ん張りが効かない」
- 姿勢が崩れ、腹圧が抜け、過剰な筋緊張が生まれる
- 腰痛・肩こり・不調の原因となることも少なくありません
姿勢は「意識」ではなく、
「APAと腹圧の連携」で整う
姿勢は「意識して正すもの」と思われがちですが、実際には神経系による無意識の調整によって保たれています。
呼吸や発汗と同じように、姿勢にも自動で働く仕組みが備わっているのです。
その代表が、APA(予測的姿勢調節)。
動き出す前に、姿勢の崩れを先回りして整える「準備反応」で、このAPAを支えるのが、腹圧(腹腔内圧)という、内側から体幹を安定させることで、動いても崩れない状態を生み出します。
つまり、姿勢を保つカギは、筋肉を意識して固めることではなく、腹圧と神経の連携によって「自然と安定する体」を取り戻すことなのです。

腹圧に「意識」は不要
ちまたでは、健康関連情報でついて回る「体幹」や「腹圧」ですが、どのようなことをよく耳にしますか?
意識してお腹を凹ませるだったり、腹筋やお腹のインナーマッスルを使うなど。だいたい、そのようなことが多いのでは無いでしょうか?
教える人の数だけ色んな情報がありますが、その多くに共通することをひとつ挙げると「意識」です。

実は、腹圧を正常に機能させるために「意識」は必要ありません。
意識せずとも、そもそも人間には姿勢調節のメカニズムとして、腹圧(コア)を安定させる能力が備わっていて、無意識に調節・コントロールされています。
腹圧の良い見本は「赤ちゃん」

赤ちゃんのからだは未発達で筋肉も未熟です。
もちろん腹圧や体幹のコントロールという概念もありません。
それなのに、寝返りしたり、ハイハイしたり、手足をバタバタしたりできるのは、筋肉や意識の力ではなく腹圧が正常に働いているからです。
赤ちゃんのお腹はこのポンポンに張っていて、まるで風船のように跳ね返って弾力があります。
体の中の圧力が保たれており、それが腹圧がしっかり働いている証。
体幹がしっかりしている人をイメージするとカチカチに締まった体を想像しがちですが、そのような体であっても腹圧が正常に機能しているとは限りません。もちろん、筋肉量はあるに越したことはありませんが、「筋肉があるから体幹が強い」「筋肉があるから腹圧がしっかり働いてる」という考え方だと、いささか短絡的と言わざるを得ません。
筋肉量と腹圧は相関はしますが、完全にイコールではありません。そのため、「見た目」に捉われず、腹圧という「機能」をしっかり引き出せているかという視点が大切です。

腹圧が低下する理由
腹圧は生活の中において、些細なことで低下します。
腹圧をコントロールするのは脳幹にある姿勢調節中枢ですが、神経系のスムーズな伝達によって成り立っているため、脳幹がしっかり働いてくれさえすれば、腹圧は適切に機能します。
ただ、脳や神経のコンディションによってバランスが保たれていますから、常時一定ということはなく、状況に合わせて変化するのが通常。そのため、「低下しているから異常」という訳ではありません。

脳幹は体を取り巻く情報を統合して、腹圧を上げたり下げたりして、姿勢や体の動きに反映させる。
当然ながら、脳、神経の情報処理に問題が起きていると正しく体に反映されません。
腹圧が低下する理由は色々ありますが、例えば、座りっぱなしのデスクワーク、イライラや不安のストレス、痛み、運動不足、食生活、睡眠などのバランスを崩すことによって、脳に疲労やストレスが蓄積していくことでも、腹圧のコントロールに狂いが生じてしまいます。

姿勢を「意識」すると、
腹圧は低下する
「背中丸まってるよ!」
「姿勢悪いよ!」
「姿勢だらしないよ!」

今までに、こんな指摘されてきた人は多いのではないでしょうか?
意識して姿勢を整えることは一見、理にかなっているように思うかもしれませんが、残念ながらそれは間違いです。
これまで述べてきたように、「姿勢は、神経メカニズムや骨格によって調節されてる」ということを踏まえると、注意されるほど、意識するほど、脳に疲労が蓄積… 姿勢調節のメカニズムがコントロールを失うことで腹圧は低下し、姿勢は崩れやすくなります。
そう。姿勢が崩れるのはあなたのせいではなく、自然にそうなってしまうので仕方のないことなのです。
何度も注意されることで「意識して」姿勢を作るようになると、指摘されることは少なくなったとしても、姿勢を良くしようとする時の「顎引いて、背筋伸ばして」などの意識的な行動が癖になってしまいます。
このような見た目を優先して作った姿勢は「努力姿勢」というもので、人と会ったり、人の前に立つ時には必要になることはありますが、脳や体へはストレスとなり、神経系を疲労させ、慢性的に腹圧を低下させる原因になります。
そのため、姿勢を正すように口うるさく言うほど、神経的なバランスは崩れ、姿勢を調節する機能は低下していきます。姿勢は、注意を繰り返しても、意識をしても根本的には改善しません。ぜひ、姿勢のメカニズムを知って適切に対処していきましょう。

腹圧回復メソッドで、
腹圧を高める
ストレスを感じさせないのがポイント。
腹圧を回復させるには姿勢調節を行う脳幹へ良好な感覚刺激を与えることが重要です。その方法として骨盤のゆすり体操をご紹介します。
この方法は人間の発生をたどって、爬虫類だった時の記憶を利用した原始的な方法です。

可能な限りストレスにならないように。脱力して「頑張らないこと」「意識しないこと」がポイントです。
心地よさを感じる程度に気楽に気軽に行いましょう。
腹圧回復メソッド
顔を左に向け、手で枕をつくり、うつ伏せになりましょう。
肩や腕が痛い人は挙げなくて大丈夫。(胸枕をすると楽にできます)
骨盤から下を左右にユラユラ揺すってください。
脱力して魚の尾ひれのような感じでユラユラと。
頑張らなくて大丈夫。リラックスしてやってみてください。
時間も回数も決めなくて大丈夫です。自然にやめたくなったらやめてください。
個人的には、お気に入りの音楽を聴きながらがオススメ(だいたい1〜2曲)
音楽に合わせてユラユラと波をうつように行います。

体操を行うことで、痛みが強くなったり不快感を伴う場合は中止して下さい。
腹圧を高め、コアを活性化する
原始的な体操

爬虫類のような腹ばいでの動きは、骨盤への良好な感覚刺激が脳幹に伝わりコアを活性させて安定させるてめにとても有効なトレーニングになります。
腹圧が回復しても本来人間に自動プログラムされたシステムですから腹圧が高まったと実感する人は多くないと思います。
腹圧が回復することで、劇的にからだの変化を感じることはありませんが、続けていくことで「なんとなく調子か良いかも。」と気づくこともあります。朝起きた時や、寝る前などに行ってみましょう。
心地よい感覚が
報酬系を活性化する

腹圧回復メソッドによって得られる「気持ちいいな」という感覚は、脳の報酬系というメカニズムを活性化してドーパミンの分泌を促進し、身体機能を引き出します。
報酬系は、脳の中にある「ご褒美を感じる」神経ネットワークで、運動や行動の学習において重要な役割を果たしており、「心地よさ」などプラスの感情を感じる時に刺激され、例えば「体を動かす」「水を飲む」「日や風を浴びる」など、動物的な本能が刺激されるだけでも活性化します。
報酬系が活性化すると、神経の伝達効率がよくなり腹圧を高めるのを助けてくれます。
具体的には、脳の「側坐核(そくざかく)」「腹側被蓋野(ふくそくひがいや)」「前頭前野(ぜんとうぜんや)」という部分が報酬系に関与しているのが分かっていて、腹圧回復メソッドによって得られる「心地よさ」はこの部分にも働きかけます。
- 側坐核(そくざかく)
側坐核は、「楽しい!」「気持ちいい!」と感じるときに活性化します。腹側被蓋野から分泌されたドーパミンにより活性化し、快楽や満足感を感じます。 - 腹側被蓋野(ふくそくひがいや)
腹側被蓋野は、ドーパミンを作り出し、分泌促進します。快楽や満足感といった報酬を予測したり、学習を強化することで、報酬を得るための行動を学習し、繰り返せるようになります。 - 前頭前野(ぜんとうぜんや)
前頭前野は、感情のコントロールに関与しています。報酬系における衝動のコントロールを担い、行動を調整することで、より良い結果に結びつけられるようになります。

腹圧が適切に高まることで、体の余計な緊張が抜け、心身のリラックス効果によりスッキリとした感覚になります。
「気分がいい」「快適」「気持ちいい」「楽しいな」と言った感覚は、脳にとってのご褒美になり、痛みのコントロール、疲労感軽減、睡眠の質向上など様々な恩恵がありますから、腹圧回復メソッドを、日々を気分よく過ごせるようにするためのルーティンの一つとして活用されると良いかもしれません。
腹圧を高めるデメリットは?

「常に腹圧が強く働き続けていると良いのか?」
一見「腹圧」が強く働き続けることが良さそうに感じてしまいますが、今まで述べてきた通り、実際はそういうわけではありません。
腹圧を適切に機能させるというのは、体の運動に合わせて圧力を上げたり、下げたりして状況に合わせて機能させるということです。
- 力を伝達する場合には、昇圧することで体幹が安定します
- 力を逃すには、降圧することで衝撃を吸収しやすくします
腹圧は、その状況によって適切なコントロールが必要なのです。すなわち、体幹の機能がどちらかに偏ることは良いことではありません。
「高すぎる腹圧」は、低下することよりも体には大きな負担になる。
腹圧が高圧に保たれることで、安定したり、力を伝えたりすることには有利ですが、その反対の機能…すなわち、衝撃を逃すことが苦手になります。
地球には重力があり、人が歩みを進めるだけで地面からは衝撃が反力として跳ね返ってきます。
歩行自体はそこまで強い運動ではないですが、人間が生活するために大量に行う行動の一つ。歩く速さにもよりますが、およそ体重の1.5〜2倍の力が跳ね返ってきます。

地面からの衝撃の大部分は、腹圧で吸収して緩衝しなければなりませんが、腹圧でその仕事を行えないと、各関節や筋肉などで吸収し、負担が蓄積していきますので、ただ生活してるだけなのに体が凝り固まり、パンパン張ってくようになってしまいます。
そのため、腹圧は安静時でもやや高めくらいが適正で、必要以上に腹圧を高圧に維持することは、むしろ体に悪影響となります。「意識してドローイン状態をキープする」などは、おすすめできません。

腹圧と体幹トレーニング
体幹はあらゆる運動の軸になる重要な部分です。
運動から見た体幹の役割はさまざまであって、「運動軸を安定させる」「姿勢を安定させる」「力を伝達する」「衝撃を逃す」など、状況に合わせて常に変化が求められます。
体幹が日常生活、仕事、スポーツなどさまざまな局面に対応するためには、状況に応じて柔らかくも硬くもならないといけません。本来、適切な体幹というのは、「ニュートラルな状況から柔らかくも硬くもなれる」ことが重要で、常にカチカチに固まった状態であることとは違います。

体幹トレーニングという言葉が知られるようになってしばらく経ちます。
その中でよく紹介される代表的なトレーニングが、ドローインやプランク、サイドブリッジ、ニートゥーエルボー、スクワットなど。
その他にも、器具を使うものなどを含め数多くの体幹トレーニングが提唱されています。
実はこれらは効率が良い方法とは言えず、関節や体幹のスタビリティ(安定性)を支えるインナーマッスルの活動が弱いまま一般的な体幹トレーニングを行うと、アウターマッスルがパワーで補ってしまうため効果が上がりません。
インナーマッスルを理解して
正しい体幹トレーニングを行う
一般的な体幹トレーニングでは不安定な状態をキープすることで筋肉を刺激しトレーニングを行いますが、体幹トレーニングの最も重要な課題は、意識ではなかなか使うことができないインナーマッスルを自然に使えるようにすることです。
体幹がニュートラルな状況から柔らかくも硬くもなれるようにするためには、腹部や腰背部の下部体幹を覆うインナーマッスルが無意識に働くことで、腹圧をスムースに上げたり下げたりできる環境にすることが重要です。

腹圧をコントロールする神経のバランスを高めた後に、プランクやブリッジなどを行うと飛躍的にパフォーマンスが向上します。
体幹トレーニングはこの順番を間違えると、コアスタビリティや運動の軸が弱いままアウターの筋肉が硬く重くなるので、関節がその重さを支えられずに怪我や障害につながってしまいます。
腹圧だけに頼らない
全身で支える体幹の作り方
体幹トレーニングというとお腹周りをイメージする人が多いですが、その部分は下部体幹と言います。 当然体幹には上部もあります。その上部体幹で重要になるのが肩甲骨の安定性ということになります。

このような関係を
ジョイント-バイ-ジョイントセオリーと言います。
人間の構造上、可動させる関節の周りには必ず運動の支点になる部分が必要になります。
肩関節や頸椎、胸椎の関節が比較的大きな運動が行えるのは肩甲骨の安定性があるからです。
そのため、腹圧を正しくコントロールするには、お腹や腰だけでなく、肩甲骨まわりの安定性も欠かせません。とくに肩甲骨を支えるインナーマッスルは、上半身の動きの土台となり、体幹と連動して全身のバランスを支えています。
ここを疎かにしたまま体幹トレーニングを続けても、力がうまく伝わらず、肩こりや首の緊張が強くなる原因になることも。逆に、肩甲骨の安定が整うと、腹圧も自然に高まり、姿勢や動作がぐっとラクになります。
腹圧をコントロールするには、
一般的な筋トレでは不十分
現代では、生活習慣や環境などから多くの方は筋力低下の傾向にあります。そのため、巷では体幹トレーニングがもてはやされています。
もちろん筋肉は重要です。
ただ、それだけでは絶対に機能しないということをぜひ知っておいて下さい。
腹圧の機能に一定の筋肉は必要ですが、適切な筋力を引き出すためには脳からの指令をスムーズ行えることの方が重要です。
カッチカチの割れた腹筋を作ったからといって、体幹や腹圧が適切に機能するわけではありません。
綺麗に割れた腹筋を持ったスポーツマンでも、体幹のバランステストをするとひっくり返ってしまうことも良くあります。

カッチカチの割れた腹筋を作ったからといって、体幹や腹圧が適切に機能するわけではありません。
綺麗に割れた腹筋を持ったスポーツマンでも、体幹のバランステストをするとひっくり返ってしまうことも良くあります。

インナーマッスルは外からは全くわかりませんが、関節運動を支えるインナーマッスルがしっかり働いてる方は、とにかく姿勢が綺麗です。
姿勢は、姿勢自体がそもそも運動で、人間が体を動かす起点になる運動です。
綺麗な姿勢というのは、リラックスした力感がなく自然体で、支点となるポイントがしっかりとれ次の運動にスムーズに移れるような姿勢。
そのため、姿勢が安定している人に身体能力が低い人はいません。一流と呼ばれるプロのアスリートの姿勢をぜひ見て下さい。自然体なのに、とてもバランスの取れた姿勢をしているはずです。
テレビやメディアなどで紹介される一般的な情報というのは正確性に欠けます。情報が溢れるこの現代、何をピックアップするかによって結果は大きく変わり、差がつきます。
著名人が言っていても、どんなに偉い人が言っていても、誰もが知っているトップアスリートが言っていても。個別具体的な情報でない限り、人が言っていることを鵜呑みにせず、自分の目でみて、感じて、確かめることを忘れないようにしたいものです。
腹圧・体幹・IAP・コア
についての関連記事
- 腹圧を高める呼吸法!今すぐ出来る腹圧トレーニング
- 腹圧を考える時に欠かせない「APA」の存在
- 腹圧を高めるには?日常生活の姿勢の意識は間違い?
- 腹圧を高めて腰痛改善!常に腹圧をかけるのは間違い
- 腹圧を高めるためのストレッチ
- 体幹トレーニングは腹圧や筋肉を意識してはいけない
- 腹圧を下げる方法とは?呼吸と運動で負担を軽減するポイント
- 腹圧ベルト、コルセットの普段使いは効果的?
- 腹圧の低下が招く悪循環。ぎっくり腰がクセになる本当の理由
- なぜ腹圧は低下するのか?赤ちゃんから学ぶ本来の腹圧機能
- コアアプローチ®︎とは
- インナーマッスルトレーニング
- コアを活性化するとはどういうことか?
- 音楽と体幹の関係を探る
- ぎっくり腰は安静にするほど悪化する!?
- 歩行と体幹の関係:コアが導く“正しい歩き方”
- 便秘解消にコア体操|体の中から整える動きの工夫
正しい知識で腹圧の力を
引き出しましょう


コメント
コメント一覧 (12件)
感銘を受けました
ありがとうございます
ありがとうございます!励みになります!
とても参考になりました。
さっそく始めてみて良かったので、腰痛で悩んでいる母にも勧めました。
ひとつ質問があります。
EMS療法というものがインナーマッスルの一番深いところまで鍛えらるということを調べて知ったのですが、EMS療法を行うことは、単にインナーマッスルの強化だけでなく、インナーマッスルと密接な関係にある腹圧や神経のバランスを整えることができるのでしょうか?
コメントありがとうございます。EMSは筋肉を部分的にしか働かせることができませんし、筋肉を直接収縮させるため神経との連動についても効果は期待できません。インナーマッスルはEMSを貼り付けることのできない横隔膜や骨盤底筋群などもあります。EMSは様々な研究がされているとは思いますが、個人的には非効率的に感じてますので当院の患者さまにもご提案することはありません。体幹を支えるインナーマッスルや腹圧のコントロールはリハビリの中で身につけていただけますが、合わせてセルフトレーニングやセルフケアを取り組んで頂いた方が圧倒的に早いし確実なので。ただ、ご使用を否定するわけではありません。もし使用するのであれば、過信せずあくまで補助程度にご利用されると良いと思います。どうぞよろしくお願い致します。
非常に勉強になる記事ありがとうございます。
質問なのですがお尻歩き、風船トレーニングはどう思われますか?
コメントありがとうございます。「お尻歩き、風船トレーニングは効果的です。」ってなると少し話が飛躍してるような気がしますね。おしりで歩くなど負荷が強くなるほどに大きな意識的に使える筋肉に負担がかかりやすくなりますし、腹圧に対しては風船を膨らますような努力的な強い呼吸よりはリラックスした深い呼吸の方が重要です。ですので、腹圧を適切にコントロールするためには段階にひとつひとつの課題をクリアしていく必要があると考えています。
腹圧のトレーニングは、腹圧回復メソッドだけでよろしいですか?
インナーマッスルは鍛えなくても大丈夫でしょうか?
一般的なプランクなどではなく、例えば呼吸とかでです。
ドローインもアウターマッスルが鍛えられて非効率なのでしょうか?
流行ったのでやっていました。
コメントありがとうございます。
インナーマッスルを強化することは大切です。トレーニングは当院においても最も中心的なアプローチになります。
インナーマッスルトレーニングは、意識的に働きやすいアウターマッスルの代償を抑えながら行う必要があり、トレーニングにはコツが入りますのでブログ等でご紹介する予定はありません。かえって逆効果、悪影響になりかねないので。
筋力トレーニングは、神経と筋肉を効率よく連動させてあげることが重要です。ご紹介している方法は、インナーマッスルを活動させるための神経系を整えるためのリラクセーションになります。筋トレにはなりませんが、神経の機能を整え筋肉を使いやすくする方法です。負荷はかかりませんのでリスクもありません。
ドローインなど呼吸を利用したトレーニングも大事です。ただ、ドローインだけを意識的に行ってもちょっと非効率かと思います。ドローインは横隔膜、腹横筋、骨盤底筋群をなど連動して働く筋肉を同時に使うことで意味が出てきます。ですので、ドローインだけを行うと言うより他の運動と組み合わせて行うことが理想的です。どうぞよろしくお願い致します。
ロードバイクに乗る際、腹圧を高めると良いと聞いて今まで意識的にやっていましたが、どうも違うような気がしていたので調べてみたらこの記事に辿り着きました。
なるほど、
無意識に腹圧をコントロールできるようにする→腹圧を高めるのに必要なインナーマッスルを鍛える
こういったプロセスが必要なのですね。
コメントありがとうございます。腹圧は状況に合わせて変化しているもので、常に一定ではありません。それを意図的にコントロールしようとすると、コアではなく周りの大きな筋肉が意識的に働くことになり、本来の機能を果たせなくなってしまいます。そのため、常日毎からコンディションを整えていくことが、状況変化に合わせた腹圧の機能を引き出すために重要なことだと考えております。
単に治療するというのではない。
自分が身体的にもう一度若い頃のようにケガや
時間的疲労にともなう問題を無くする(無くならないつーことはないか)、減らして活動的な身体に良い方向へもたらすもののようで大いに希望、期待を感じさせる。
齢還暦過ぎた私は胃腸の問題、五十肩に第五腰椎分離症、膝痛など若い頃の柔道でのケガの延長に苛まれおり、一般的に無理せず付き合ってと言われ、寂しくなる。体験だけでも受けてみるかなぁと。期待してみるかなぁ。と気持ちが揺らいだ。
おはようございます。
4月からピラティスインストラクター職に就職し新社会人が始まると同時に資格養成コースを受講しています。
脳の変容とのつながりが腑に落ちました。
人の意識だけだと思っていたので、信じていませんでした。体は一体、心も体も繋がっているとは実感があったものの、それが背骨の運動と結びつくのには時間がかかりました。今日腑に落ちました。会社でアウトプットしてきます。行ってきます。貴重なお話をこのように目に通る形で提供いただき、本当に感謝いたします。ありがとうございます。