脳の老廃物を排出する
「グリンパティックシステム」とは?

私たちの脳は、日々活動する中で不要な老廃物を生み出します。これを適切に排出できなければ、認知機能の低下や神経変性疾患のリスクが高まる可能性があります。
近年の研究では、脳の老廃物排出には「グリンパティックシステム」が重要な役割を果たしていることが明らかになってきました。
最新の研究によると、脳のゴミは「グリンパティックシステム」と呼ばれる脳脊髄液の流れを利用して排出されることが分かっています。このシステムは、主に睡眠中に活性化し、脳内の老廃物を洗い流す働きをします。
特にアルツハイマー病の原因となるアミロイドβなどの蓄積を防ぐためには、
- 質の高い睡眠を確保する(深い睡眠がグリンパティックシステムの働きを促進)
- 適度な運動を行う(血流が改善され、脳脊髄液の流れが促進される)
- 水分を十分に摂取する(脳脊髄液の生成を助ける) といった生活習慣が重要です。
グリンパティックシステムが
働かないとどうなる?
グリンパティックシステムが正常に機能しないと、脳に老廃物が蓄積し、さまざまな悪影響を及ぼします。
まず、認知機能の低下が挙げられます。思考力や記憶力が低下し、集中力や注意力が鈍ることで、日常生活にも支障をきたします。

また、脳の健康を維持するために重要なプロセスが妨げられることで、長期的な影響が出る可能性があります。老廃物が適切に排出されないと、脳の働きが鈍くなり、スッキリしない感覚が続くことも考えられます。
さらに、慢性的な脳疲労を引き起こし、常に頭がぼんやりした状態が続くことになります。こうした状態が長く続くと、睡眠の質が低下し、さらにグリンパティックシステムの働きが悪くなるという悪循環に陥る恐れがあります。
グリンパティックシステムを
活性化する方法
脳の老廃物を効率的に排出するためには、グリンパティックシステムを最大限に活性化させることが重要です。そのためには、質の高い睡眠や適度な運動、水分補給を意識することが欠かせません。
- 質の高い睡眠をとる
- 7〜9時間の睡眠を確保し、深いノンレム睡眠を得る。
- 寝る前のスマホやカフェイン、アルコールを控え、睡眠環境を整える。
- 横向きで寝る
- 研究では、横向きの姿勢がグリンパティックシステムの流れを良くするとされています。
- 右向きが特に推奨されるが、自分にとって快適な姿勢を選ぶことが大切です。
- 適度な運動をする
- ウォーキング、ジョギング、サイクリングなどの有酸素運動が効果的。
- 1日30分程度の運動を習慣化する。
- 水分補給をしっかり行う
- 脳脊髄液の主成分は水分であり、脱水状態では機能が低下する。
- 1日1.5〜2リットルの水を意識して摂取する。
- リラックスしてストレスを減らす
- ストレスは交感神経を活性化し、グリンパティックシステムの働きを阻害する。
- 瞑想や深呼吸、温かいお風呂などで副交感神経を優位にする。
- アルコール・カフェインの摂取を控える
- 過剰なアルコールはシステムの機能を低下させる。
- カフェインは睡眠の質を下げるため、夕方以降の摂取は避ける。
- DHAやオメガ3脂肪酸を摂取する
- サーモンやマグロ、イワシなどの魚に含まれるDHAやEPAは脳の健康維持に役立つ。
- ナッツやアボカドなどの良質な脂質も取り入れる。
クレニオセイクラルセラピー
という方法もある

グリンパティックシステムを活性化させる方法の一つとして、クレニオセイクラルセラピー(CST)というアプローチも存在します。
これは、頭蓋骨や仙骨に優しく触れながら、脳脊髄液の流れを促すことで、リラクゼーションや自己治癒力を高めるとされる手技療法です。
この手法は、特にストレスや緊張の緩和、睡眠の質の向上を目的として利用されることが多いですが、科学的な根拠については意見が分かれています。
クレニオセイクラルセラピーとは
クレニオセイクラルセラピーとは
クレニオセイクラルセラピーの歴史は古く、20世紀初頭にアメリカのオステオパスであるドクター・ウィリアム・サザーランド(Dr. William Sutherland)が、頭蓋骨はわずかに可動性を持ち、その動きをもって脳脊髄液が正常に循環することで全身の健康に影響を与えるというアイディアを提唱したのがルーツです。
その後、米国のオステオパシー医師でミシガン州立大学生体力学教授だったジョン・E・アプレジャー博士の研究により、頭蓋骨を動かしているのは「頭蓋骨(クレニオ)」と「仙骨(セイクラル)」をつなぐ、クレニオセイクラルシステムという硬膜(脳の外側の膜)を介して脳脊髄液が全身に循環するメカニズムを発見。
アプレジャー博士は「硬膜の緊張」を緩めるアプローチとして「クレニオセイクラルセラピー」と名付け、現在では世界135カ国に普及しています。
クレニオセイクラルセラピーの目的は全身の組織状態を整えること
セッションでは、頭蓋骨・背骨・仙骨へとつながる中枢神経を包む硬膜をリリースすることで、脳から脊髄を満たしている脳脊髄液の循環を促進すると考えられています。
頭蓋骨(cranium/cranio)と仙骨(sacrum/sacral)と呼ばれる骨盤の後側を中心に、脳脊髄液の流れ、神経、筋膜など全身の組織の状態を調整することを目的としていて、

セラピストはあくまで調整に徹するため、積極的に骨や関節を動かすことや、体を押したり、揉んだりということはありません。
身体の微細なリズム、呼吸、波動、脈動(クレニオセイクラルリズム)に合わせたアプローチによって、全身の組織と同調、共鳴することで生体反応を引き出していきます。
クレニオセイクラルセラピーを安心して受けて頂くために
クレニオセイクラルセラピーは100年以上も続く伝統的かつクラシックな施術で、オステオパシーの一部として今日まで発展してきました。ただ、今になっても数値化・データ化が難しく、科学的な研究もあまり進んでいないため、概念や解釈、表現については曖昧なところを多く残しています。
時に「クレニオセイクラルは怪しい」と言われてしまうことがあるのは、科学的な要素が欠けているのを補うため、それぞれのセラピストが独自の手法やアプローチが加えられながら進化、派生しており、セラピストによっての差も大きく、安定した結果を得られにくいという側面があるためです。
そのため、施術の効果や質を高めるためには、セラピストと丁寧に対話とフィードバックを行い、信頼関係を築くことが必要不可欠です。
グリンパティックシステムと
クレニオセイクラルセラピーの違い
グリンパティックシステムは、脳が自然に行う老廃物の排出機能であり、科学的に証明された生理的プロセスです。一方で、クレニオセイクラルセラピー(CST)は、この流れを手技で促進しようとする代替療法の一つです。
グリンパティックシステム | クレニオセイクラルセラピー | |
本質 | 脳の自然な排出機能 | 手技による介入 |
科学的根拠 | 研究により証明されている | 科学的証拠は不十分 |
老廃物排出の方法 | 脳脊髄液が自然に流れる | 手技で流れを促進するとされる |
作用メカニズム | 睡眠中に活性化 | 施術によるリラックス効果 |
目的 | 認知機能維持・脳の健康促進 | 自律神経調整・ストレス軽減 |
グリンパティックシステムは生理的な機能であり、主に睡眠や生活習慣によって影響を受けます。一方、クレニオセイクラルセラピーは外部からの手技による介入を通じて健康をサポートする方法とされています。
クレニオセイクラルセラピーの可能性
科学的な根拠は十分ではないものの、クレニオセイクラルセラピーはリラクゼーション効果が高く、自律神経のバランスを整える可能性があります。
- ストレスの軽減
- 良質な睡眠の促進
- 体全体の緊張緩和

脳や脊髄を包んでいる脳硬膜の緊張が解けることによって、体のもつ自律的なバランス調整が正常に行われるようになり、痛みの変化、全身のリラクセーション効果、循環改善効果なども期待できます。
このような間接的な形で、脳の老廃物排出をサポートできるかもしれません。
脳のゴミ排出システムを効率よく活用する

脳のゴミを効率的に排出するには、グリンパティックシステムを最大限に活用することが大切です。
そのためには、良質な睡眠・適度な運動・十分な水分補給を意識することが重要です。
一方で、クレニオセイクラルセラピーもストレス軽減やリラックスの面で有益かもしれません。
科学的根拠のある方法を優先しつつ、補助的なアプローチとしてCSTを取り入れることも、一つの選択肢となるでしょう。
