朝の「体が重い」は、
神経からのSOS

ある朝、まるで身体が鉛のように重く、立ち上がるのさえ億劫に感じたことはありませんか?
あるいは、しっかりと深く眠れた翌朝、いつもより軽やかに身体が動き、呼吸も深く、姿勢まですっと整っているように感じた経験は?
この「重さ」と「軽さ」の違いは、単なる寝不足や気のせいではありません。
じつはその差を生み出している正体は、腹圧(IAP:Intra-Abdominal Pressure)にあるのです。
腹圧とは、横隔膜・腹横筋・骨盤底筋・多裂筋などのインナーマッスルが共同してつくり出す、体幹の内側の圧力です。この圧が適切に働くことで、姿勢が安定し、内臓が正しい位置を保ち、呼吸がスムーズになります。
しかし、腹圧は筋肉だけの問題ではありません。
実はその裏側に、「神経系の状態」や「睡眠の質」が大きく関わっていることが、近年の研究からも見えてきています。
眠りが浅く、神経が疲弊していると、腹圧を支える神経伝達のスピードや精度が落ちてしまい、身体の「支え」そのものが機能不全に陥ってしまうのです。

「睡眠」と「腹圧」には、とても重要なつながりがあります。
- 姿勢制御のメカニズム「APA」
- 脳と神経系のリカバリーシステム「グリンパティックシステム」
- 脳脊髄液の循環を整えるアプローチ「クレニオセイクラルセラピー」
これらはすべて別々の話のようでいて、実は「腹圧」というひとつの現象の中で、静かに重なり合いながら働いています。
筋力だけでは語れない、神経とリズムが生み出す、腹圧という「内なる安定装置」の仕組みを、神経・睡眠・体幹の視点から紐解いていきます。

腹圧(IAP)とは
体幹の安定と自律の要
腹圧とは、横隔膜・骨盤底筋・腹横筋・多裂筋などが連携して腹腔内に生じさせる内圧です。
この内圧は、単なる体幹の安定装置にとどまらず、呼吸・姿勢・内臓機能・自律神経調整にも関与する、多機能な生体システムです。
適切な腹圧は、立つ・歩く・持ち上げるといった基本動作の土台を支えてくれます。

APA(予測的姿勢調節)と
腹圧の連動

APAとは、Anticipatory Postural Adjustment(予測的姿勢調節)の略で、体を動かす前に無意識に体幹が先に働いてバランスを保つ仕組みです。腹圧は、このAPAと深く連動しており、腹圧の立ち上がりが遅れれば、動作の安定性そのものが崩れてしまいます。
APAとは、Anticipatory Postural Adjustment(予測的姿勢調節)の略で、体を動かす前に無意識に体幹が先に働いてバランスを保つ仕組みです。
腹圧は、このAPAと深く連動しており、腹圧の立ち上がりが遅れれば、動作の安定性そのものが崩れてしまいます。

APAを動かす腹内側系は
リニアで繊細な神経ネットワーク
APAを発火させるのは、腹内側系(ventromedial system – ベントロメディアル・システム)という、体幹部を制御する運動神経の通路。
非常にリニア(直線的)な構造を持つため、わずかなコンディション低下でも信号伝達速度が落ち、APAの発火タイミングが狂いやすくなります。
つまり、神経の「応答性」が落ちるだけで、全身の姿勢制御力は一気に低下するのです。

\APAについて詳しく解説/

睡眠中の脳の「洗浄」
グリンパティックシステム
2019年、ボストン大学の研究チームは、睡眠中(特にノンレム睡眠)に脳内で脳脊髄液(CSF)がリズミカルに流れ、老廃物を排出していることを明らかにしました。

これは「グリンパティックシステム」と呼ばれ、脳の清掃システムとして、日々、脳をメンテナンスしています。

引用元において、「グリンパティックシステム」とは明記してありませんが、実質的には同じ脳内洗浄メカニズムについて解説しています。
脳と脊髄を包む透明な液体、脳脊髄液(CSF)には、このような役割があります。
- 老廃物の洗浄
- 神経の代謝サポート
- 神経活動の冷却と安定化
このCSFは、深い睡眠中に最も活発に流れ、脳と神経の「メンテナンス」を行います。
この「グリンパティックシステム」によって、神経細胞の代謝老廃物を除去し、神経伝達の効率性を保つ役割を果たしているとされます。この仕組みが滞れば、腹内側系の応答性やAPAの反応にも悪影響が及ぶ可能性があるのです。

腹圧で最重要なのは
神経のレスポンス

姿勢が整うメカニズムの「根っこ」は、脳と神経のコンディションにある。朝、体が重く感じるのは、筋肉が弱っているからではありません。
その多くは、神経系の「応答性」が落ちていることに起因しています。
人は動こうとするその瞬前に、無意識に体幹を働かせてバランスを保ちます。
それが先に挙げた、「予測的姿勢調節(APA – Anticipatory Postural Adjustment)」です。まさに私たちの動作の「基礎反応」ともいえるしくみです。
APAが正しく働くには、
腹内側系のコンディションが要
APAの指令は、筋肉よりもまず神経から出ています。
特に体幹をコントロールしている神経の通路「腹内側系(ventromedial system – ベントロメディアル・システム)」は、とても繊細で、わずかな代謝の乱れでも信号のスピードや正確さが低下します。
つまり、神経の「配線」が少しでも乱れていると、どれだけ筋肉を鍛えても姿勢が安定しない・腹圧が立ち上がらないという状態に陥ってしまうのです。
- 睡眠が浅い → CSFが流れにくい
- 神経の老廃物が溜まる → 腹内側系の働きが鈍る
- APAの反応が遅れる → 姿勢・呼吸が乱れる
- 結果、腹圧が立ち上がらず「体が重い」
このように、睡眠は腹圧の土台そのものと言っても過言ではありません。
クレニオセイクラルセラピー
脳の休息をサポート

現代の生活では「毎日ぐっすり眠れる」とは限りません。
そんなときにおすすめしたいのが、クレニオセイクラルセラピー(CST)という方法です。
CSTは、頭蓋骨と仙骨にごくやさしく触れることで、脳脊髄液(CSF)の流れやリズムを促進し、神経系の回復をサポートする手技療法です。
CSFの循環は、睡眠中だけでなく、外からのやさしい刺激でも再起動できる可能性があると考えられており、CSTは「眠っているときの回復モードを、手技で再現するような療法」といえます。

この施術療法は、まさにグリンパティックシステムが働いている睡眠時の脳内CSF循環を「疑似的に再現」するような介入といえます。腹内側系の働きを改善し、APAの反応性を高める手段として、非常に理にかなったアプローチであると考えています。

腹圧を高めるには
しっかり神経を
休ませること
よく眠れた朝は、体が軽い
それは、単なる気分の問題ではなく、神経系と姿勢制御のコンディションが整っている証です。
APAが反応良く発火して、腹圧を適切にコントロールしてるからこそ得られる感覚なのです。

- 姿勢の安定に不可欠な「APA」は、筋肉ではなく神経のコンディションに左右される
- その神経の働きは、脳脊髄液の循環(CSF)=睡眠の質で決まる
- 神経が整えば、自然と腹圧は立ち上がる
- 深く眠れないときは、クレニオセイクラルセラピーという選択肢がある
腹圧は、鍛える前に「整える」もの
姿勢を変える最短ルートは、神経にやさしくアプローチすることかもしれません。
睡眠・CSF循環・神経系の応答性といった背景に目を向けることで、腹圧や姿勢改善の可能性は飛躍的に広がります。
まずは日々の睡眠を大切にすること。そして、補助的にクレニオセイクラルセラピーやセルフケアを通じて、自分の神経コンディションにアプローチすることは、まさに「根本的に整える」という選択肢につながるのです。

腹圧・体幹・IAP・コア
についての関連記事
- 間違いだらけの腹圧と体幹の常識(IAP/腹腔内圧)
- 腹圧を考える時に欠かせない「APA」の存在
- 腹圧を高める呼吸法!今すぐ出来る腹圧トレーニング
- 腹圧を高めるには?日常生活の姿勢の意識は間違い?
- 腹圧を高めて腰痛改善!常に腹圧をかけるのは間違い
- 腹圧を高めるためのストレッチ
- 体幹トレーニングは腹圧や筋肉を意識してはいけない
- 腹圧を下げる方法とは?呼吸と運動で負担を軽減するポイント
- 腹圧ベルト、コルセットの普段使いは効果的?
- 腹圧の低下が招く悪循環。ぎっくり腰がクセになる本当の理由
- なぜ腹圧は低下するのか?赤ちゃんから学ぶ本来の腹圧機能
- コアアプローチ®︎とは
- インナーマッスルトレーニング
- コアを活性化するとはどういうことか?
- 音楽と体幹の関係を探る
- ぎっくり腰は安静にするほど悪化する!?
- 歩行と体幹の関係:コアが導く“正しい歩き方”
- 便秘解消にコア体操|体の中から整える動きの工夫
コメント