インナーマッスルは、なぜ弱る?
快適で便利な生活に潜む罠
現代の便利な社会では、日常生活において「いかに労力を使わずに楽をさせるか」という視点であらゆるものが作られています。
家事をするにも大抵のことが手先、指先だけで済んでしまいますし、外出する時には歩かずとも移動できてしまいます。仕事中も座りっぱなしでパソコンに向かうだけ。

そうした運動の機会を奪う社会環境が、人間の運動機能を著しく低下させてきています。
そして、多くの方が同じような生活習慣、行動習慣を繰り返す中で生活し、体の同じような場所が弱ることで、結果として、こうしたトラブルに名前がつき一般的に広まってきています。

- ストレートネック
- 猫背
- 巻肩
- ぽっこりお腹
- 反り腰
- O脚
- 扁平足
これらの根本的な原因は、筋力低下による運動のバリエーションの偏りです。
つまり、日常生活において、使われるところは使われすぎ、使われないところは徹底的に弱る。使いすぎる筋肉は疲労が蓄積することで栄養状態が悪化。筋肉は硬化し、関節を固めます。
固まった関節によって本来必要になる動きが失われると、それを補うため別な場所が「代償(だいしょう)」することでなんとか体を動かしていきます。
それが皆さんがよく言う「歪み」であり、ストレートネック、猫背、巻肩、ぽっこりお腹、反り腰、O脚、扁平足といった見た目の変化につながります。
インナーマッスルの働きは
頭では認識できない
運動の軸となる関節の安定性において、大きな力を発揮するのがインナーマッスル。
ただ、とても影響が大きい筋肉群ですが、体の中心近く、深い部分にある筋肉ほど感覚が乏しく、使っていることも弱っていることも感覚的に捉えることはできませんし、意識して鍛えることもできません。
自分では気づかない間にインナーマッスルは弱り、その代わりに使いすぎる部分が疲労し、限界を迎えることでコリ、ハリ、痛みといった不快感を感じ始めます。火のないところに煙は立ちません。あなたの感じている不調の根底には少なからずインナーマッスルが関わっています。

- インナーマッスル
関節を固定することで体を安定させたり、止めたり、運動の支点をつくるのが得意 - アウターマッスル
力を伝えやすい所に配置され、瞬間的なパワーを出したり、関節の曲げ伸ばしが得意
この二つの筋肉群の機能は相反するもので、お互いを支え合って体を動かしています。
そのため、インナーマッスルが仕事を放棄したら、その仕事はアウターマッスルで行わなければなりません。そもそも役割が違いますから、アウターマッスルに「止める」「固定する」という運動をさせるとあっという間に疲労してしまいます。
例えば、
2リットルの水が入ったペットボトルを一瞬持ち上げるのは簡単です。
ですが、「そのペットボトルを1時間持っていてください」と言われたら… 腕がプルプルしてくるのではないでしょうか?

運動というと体を動かすことを想像しがちですが、実際は、姿勢自体が「姿勢」という運動です。
同じ場所に座ったり、立って体を安定させる時に、インナーマッスルが働かないと、アウターマッスルが頑張って姿勢を支えるわけです。これが、「座っているだけ」「立っているだけ」で疲れてくる、痛くなるということの答えになります。
体幹を安定させる
鍛えるべきインナーマッスル
例えば、腰痛の原因は体幹のインナーマッスルにあると言えるほど。急性のギックリ腰でも慢性的な腰痛でも、トレーニングや体操だけで解決してしまうことは珍しくありません。
腰のトラブルメーカーの代表は
多裂筋(たれつきん)

多裂筋は骨盤から首まで通っていて、背骨の軸を固める働きがあり、姿勢を維持したり、腰を反らせる時に働きます。
そのため、多裂筋が硬くなりすぎると反り腰の傾向になり、トラブルを引き起こします。
多裂筋の過緊張による過度な反り腰で、関節に蓄積疲労が溜まると、学生スポーツなどに多い腰椎滑り症や分離症のリスクが上がります。
高齢者では脊柱管狭窄症などが起きやすくなります。
逆に多裂筋の筋力が低下すると、腰は丸くなり、背骨の前に負担がかかり腰椎ヘルニアや腰椎圧迫骨折が起きやすくなります。
腰痛のほとんどは、多裂筋のような重要なキーマッスル(鍵になる筋肉)の影響を受けることで、関節の位置などが変化しその歪みが長い期間をかけて蓄積することで発症します。
そして、多裂筋のようなインナーマッスルは意識的に使うことができないため、正確にトレーニングを行うためにはポイントを抑えて行う必要があります。
骨盤を安定させる重要な筋肉は
腸腰筋(ちょうようきん)

腸腰筋は多裂筋と合わせて、腰から股関節までを安定させる重要なインナーマッスルです。
腸腰筋と多裂筋は表裏一体です。どちらもバランス良く働くことで骨盤の位置を安定させています。
現代は座って過ごす時間が長い傾向があり、日常的に腸腰筋が使えていません。
そのため、年齢問わず腸腰筋の働きが落ちていることが多くみられます。
腸腰筋が弱くなると、
- 骨盤が不安定になります
- 足が上がりづらくなります
- 股関節が開かなくなります
腸腰筋と多裂筋のバランスが崩れることで、骨盤が固まってしまい歪んだまま固定されてしましまうと、股関節や背中に大きな負担がかかり股関節痛や腰痛の原因になります。
腸腰筋や多裂筋は意識では動かしにくい筋肉です。効率良くトレーニングを行うには、関節の動かし方をコントロールする必要があります。
バランス良く筋肉が働けば、その場で体幹機能は向上しギックリ腰でも慢性腰痛でも劇的に改善させることができ、歪みも自然に矯正されていきます。
一般的な体幹トレーニングは、多くの場合で全身運動です。弱っている筋肉はあまり動きませんので他の筋肉が代わりに働いてしまい、辛さの割に効果は上がらないだけでなく、かえって痛みがひどくなるケースがあります。
本当のインナーマッスルの鍛え方
インナーマッスルは、運動の中で自然に使われることで機能します。インナーマッスルだけで単独で動くことはなく、意識的に鍛えることもできません。
巷でよく聞く「インナーマッスルを意識しましょう」という掛け声、インナーマッスルを鍛えるされる機械、ドローインやプランクなどのいわゆる体幹トレーニングなど。
インナーマッスルを鍛えるとされているものは沢山ありますが、効果については懐疑的です。

- 意識については、意識的に使える筋肉が真っ先に動くため、インナーマッスルの働きの邪魔になり、逆効果です。
- 機械で刺激する方法は、インナーマッスルは運動の中において使われるため、補助的に機械を使うには良いかと思いますが、それだけに頼るのは不十分です。
- 一般的な体幹トレーニングとされる運動は、往々にして全身運動です。バランスが整っていない全身運動では、使われる部分は必要以上に使われ、弱い部分は動きません。強度の高い運動は、そのコントラストを強め、大きな負担がかかるため怪我のリスクが高くなります。
インナーマッスルを効率的に鍛えるためには、使いすぎる筋肉の働きを抑えることが大切で、意識的な運動をさせないように、脱力を心がけ、自然体で弱い運動を反復するところからスタートします。
鍛えるべきは筋肉という考え方を捨て、インナーマッスルのトレーニングでは「神経」を鍛えていきます。弱い力で繰り返し反復することで、本来の運動を脳と神経に学習させ、神経の伝達を強化していきます。これはリハビリ用語では「促通(そくつう)」と言われるものです。
実際にインナーマッスルのトレーニングはこの流れで行います。
- 数をこなす(レスポンスを上げる)
- 強く力をかける(出力を上げる)
- 長く持続させる(持久力を上げる)
- バリエーションを増やす(運動に反映させる)

トレーニングというと少し身構えてしまいますが、最初は体操に近いようなところからスタートし、最終的には「立つ」「座る」「しゃがむ」「かがむ」「歩く」「呼吸する」といった、日常生活動作に落とし込みます。インナーマッスルの働きは、人間が日常的に行う活動を丁寧に行なっていれば弱ることはありません。
ただし、「立つ」「座る」「しゃがむ」「かがむ」「歩く」「呼吸する」といったことでさえ、複雑な運動の組み合わせですから、いきなり身につけられるわけではありません。ですので、最初はそういった運動を分解して、できることを一つ一つこなしていくことが大切です。
目指すのは、生活してるだけで、体の調子が勝手に良くなる状態にすること。
正しく「歩く」ことができれば、それだけインナーマッスルは自然に鍛えられますから、他に特別な運動を行う必要はなくなります。基本的なトレーニングは歩くだけで十分ですが、ウォーキングで物足りなければ、ぜひそこから、お好きなスポーツを楽しんでいただきたいと思います。
