腹圧と発声
感覚とメカニズムのズレ

ボイストレーニングや発声のテクニックそのものについて、私は専門的なことを語れる立場にはありません。
ただ、臨床の視点から見ていて、腹圧に関する発信の中には解釈の順序が逆になっているものが多いように感じています。
多くの場合、こういった説明が、発声と結びつけて語られています。
- 腹部に意識を集中させる
- お腹に力を入れて腹圧を高める
しかし、仮に声量豊かな発声に腹圧が必要だという前提に立つのであれば、意識や集中といった感覚的な操作は、むしろ一度忘れてもらった方がいいかもしれません。
腹圧は作るものではなく
「結果として生じるもの」
重要なのは、しっかりと息を吐ける環境が整っているかどうかです。
深い呼気を行うためには、まず不要な緊張が抜けている必要があります。リラックスした状態で息を吐くと、横隔膜は弛緩し、お腹の中でドーム状に広がります。その動きによって肺が下から押され、自然に空気が外へ流れ出ていきます。
このとき、横隔膜の動きに引き込まれるように腹横筋や骨盤底筋といった、腹腔を構成する筋群が協調的に働きます。結果として、腹腔内圧は自然に高まります。
つまり、
腹圧を高めて声量を上げるのではなく、自然な深い呼気に伴って声量が上がり、結果として腹圧が上がる。
この順序で理解する方が、メカニズムとしては自然です。

深い呼気に必要なのは
「頑張り」ではない
深い呼気を行うために必要なのは、呼吸をスムーズに機能させるための関節の運動。
- 背骨の柔軟性
- 胸郭の柔軟性
- 横隔膜の柔軟性

そして、それらが活かされるリラックスした状態です。いきなり「トレーニング」として頑張ろうとするよりも、まずは自分の呼吸そのものと向き合ってみることをおすすめします。
息をきちんと吐けていますか?
気づいたら吐くことを忘れていませんか?
肩や首に力が入っていませんか?
「意識」「集中」という言葉は、一般にポジティブに扱われがちですが、意識や集中を「手放す」という選択肢があることを忘れてはいけません。押してダメなら引いてみるという言葉があるように、少し力を抜くことでうまくいくこともあります。
腹圧も同じです。
優しく、ゆっくり息を吐く。そこからすべてが始まるのかもしれません。

腹圧・体幹・IAP・コア
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