腰痛の本当の原因と改善の鍵
腰痛はなぜ起こるのか?
腰痛の原因は、単に筋肉や骨の問題ではなく、体の動きのバランスが崩れることにあります。実際、レントゲンやMRIで異常が見つかる腰痛は全体の15%程度で、大半の腰痛は「原因不明」とされます。
しかし、多くの場合、腰自体に原因はなく、体幹(コア)の働きや姿勢制御の不具合によって痛みが発生しています。

腰痛の慢性化に関わる4つの要素
腰痛が慢性化する原因は、以下の4つの要素が複雑に絡み合っていると考えられています。それぞれの要素について、より詳しく解説します。
コア機能の低下
コアとは、体の中心部分である体幹(胴体)を指します。具体的には、腹筋群、背筋群、横隔膜、骨盤底筋群などが含まれます。これらの筋肉がバランス良く働くことで、体を安定させ、腰椎への負担を軽減する役割を果たします。
しかし、運動不足や姿勢の悪さ、活動不足などによってコア機能が低下すると、体を支える力が弱まり、腰への負担が増大します。特に、腹筋群の筋力低下は、腰椎の安定性を損ない、腰痛を引き起こしやすくなります。
APA(予測的姿勢調節)の破綻
APA(Anticipatory Postural Adjustments:アンティシパトリー・ポスチュラル・アジャストメント)とは、動作を行う前に、あらかじめ姿勢を調整する機能のことです。例えば、物を持ち上げるとき、無意識のうちに体の重心を調整し、腰への負担を軽減します。
しかし、このAPAが破綻すると、動作の準備がうまくできず、腰に過剰な負担がかかってしまいます。特に、急な動作や不意の動きに対して、APAが適切に働かないと、腰痛を引き起こしやすくなります。
腹圧の低下
腹圧とは、お腹の中の圧力のことです。腹圧は、体幹を安定させ、腰椎への負担を軽減する役割を果たします。
しかし、睡眠不足、座りすぎなどの運動不足などによって腹圧が低下すると、体幹が不安定になり、腰椎が過剰に動きやすくなります。
その結果、筋力を使いすぎることによって、腰痛を引き起こしやすくなります。
運動のアンバランス
体の一部分が固定されるのが 固定部位 、過剰に動いてしまうのを 過剰運動部位 と言います。
例えば、股関節が硬くなると、腰椎が代わりに過剰に動くようになり、腰痛を引き起こすことがあります。
また、過去の怪我や手術などによって、特定の部位が固定化されることもあります。この場合、固定された部位を補うために、周囲の部位が過剰に動き、腰痛を引き起こすことがあります。
これらの4つの要素が複合的に重なることで、腰痛が慢性化すると考えられています。慢性的な腰痛に悩まされている方は、これらの要素を考慮した上で、適切な治療やリハビリテーションを行うことが重要です。

腰部に多い症状・疾患
筋・筋膜性腰痛
「検査では異常なし」と言われた腰痛の多くは、この筋・筋膜性腰痛に分類されます。骨や神経に器質的な異常がなくても、筋肉や筋膜の持続的な緊張によって血流が低下し、阻血状態から発痛物質が滞留することで痛みが出現するタイプです。
特に、腹圧がうまく働かず、体幹が不安定な状態が続くと、腰を支えるために背部の表層筋(グローバルマッスル)に過剰な緊張がかかります。これは、言うなれば“代わりに働かされている”状態。いわば、本来静的安定性を担うインナーユニット(腹横筋・多裂筋・骨盤底筋・横隔膜)が機能していないことで、常に力を入れ続けているような緊張状態になってしまうのです。
長時間の座位や不良姿勢によってこの状態が慢性化すると、筋肉の柔軟性は失われ、筋膜が癒着・線維化して硬くなることもあります。こうした場合、単なるストレッチやマッサージではすぐに戻ってしまい、根本的な解決にはつながりません。
コアの再教育と、腹圧の適切なコントロールが最優先課題になります。
仙腸関節障害
仙腸関節は、骨盤の後方に位置し、仙骨と腸骨をつなぐ数ミリしか動かない極めて安定性の高い関節です。ですが、妊娠出産や加齢、姿勢の崩れ、腹圧の低下などの影響でこの関節にわずかなズレや不安定性が生じると、腰部〜臀部〜大腿後面にかけての強い痛みを引き起こすことがあります。
一般的にはレントゲンやMRIで異常が見つかりにくいため、“原因不明の腰痛”として見過ごされがちです。
この関節を安定させているのが、まさに腹圧です。横隔膜・腹横筋・骨盤底筋・多裂筋といった深層筋が連動して腹腔内圧を保ち、関節を押し付け合うように安定させることで、仙腸関節への負荷を最小限にとどめています。
逆に、コアの筋群が働かず、腹圧が低下した状態では仙腸関節への微細なストレスが繰り返され、関節包や靭帯が炎症を起こしやすくなります。
当院では、構造的なアプローチに加え、神経系からの再統合、そして歩行や姿勢制御(APA)の再学習を通じて、仙腸関節の安定性を根本から取り戻すことを重視しています。
腰部椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板の中心にある髄核が線維輪を突き破って飛び出し、神経を圧迫することで、腰痛や下肢のしびれ、痛みなどを引き起こす疾患です。
しかし、発症には「コアの不活性化」、「腹圧の低下」、「APA(予測的姿勢調節)の破綻」が大きく関わっているケースが少なくありません。
腹圧が低下すると、体幹が不安定になり、その補償としてグローバルマッスルが過剰に働くことで、椎間板への剪断ストレスが増加します。
また、APAがうまく機能しない状態では、日常の前屈やひねり動作といった何気ない動きでも、不適切な力が椎間板に加わりやすく、結果としてヘルニアを引き起こしやすくなります。
腰部脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症は、加齢や骨構造の変化によって、神経の通り道である脊柱管が狭くなり、神経を圧迫することで、歩行困難や間欠性跛行(断続的に歩けなくなる症状)、下肢のしびれを引き起こす疾患です。
狭窄症は、一般に構造的な問題(骨や靭帯の肥厚、椎間板の変性)が原因とされますが、根本には「姿勢制御の崩れ」や「動作パターンの硬直化」が深く関与しています。
腹圧の低下やコア機能の破綻によって体幹の柔軟性と可動性が失われると、脊柱管周囲の支持組織に過度な緊張がかかり、結果として神経の絞扼を助長してしまいます。
そのため、正しい呼吸パターンの回復とともに、腹圧を再獲得していくことが、脊柱管狭窄症の症状改善における重要な鍵となります。
腰椎すべり症
腰椎すべり症は、椎体(背骨の骨)が前方にズレることで、神経を圧迫したり、腰部の不安定性を引き起こす疾患です。特に中高年の女性に多く見られます。
この背景には、腹圧の慢性的な低下と、深部筋(多裂筋や腹横筋など)の機能不全が密接に関わっています。体幹(コア)がうまく機能していない状態が続くと、腰椎が微細にズレ続け、それが時間とともに構造的なすべりへと進行していきます。
根本的な改善には、骨盤帯と体幹の安定化戦略を見直し、動作のたびに局所的な負荷が集中しないような動きの再学習が不可欠です。姿勢や呼吸、腹圧のコントロールまで含めた統合的なアプローチが求められます。
腰椎分離症
腰椎分離症は、腰椎の後方部分(椎弓)に起こる疲労骨折です。特にスポーツに励む成長期の子どもたちに多く見られる疾患で、繰り返しのジャンプやひねり動作が主な原因とされています。
この疾患の背景には、「動作のたびに腰椎へ過剰な剪断力(ずれるような力)がかかっていること」があります。そして、それは単に動きが激しいからではなく、体幹の安定性、特に腹圧のコントロールがうまく働いていないことが深く関係しています。
本来であれば、物を持ち上げたりジャンプしたりする直前に、無意識のうちに体幹の筋肉(インナーマッスル)が働いて姿勢を整える「APA(先行的姿勢制御)」というメカニズムが働くはずです。これがうまく機能していないと、腰椎に集中して力がかかり、骨へのダメージが蓄積してしまいます。
そのため、再発予防やパフォーマンス向上のためには、腹圧をしっかりと高め、タイミングよく体を支える力=コアの再教育が欠かせません。
上殿皮神経障害
腰からお尻にかけて伸びている細い神経「上殿皮神経」が、筋肉や筋膜(筋肉を包む膜)に圧迫されたり、引き伸ばされたりすることで痛みが生じる状態です。
この神経は、お尻の皮膚の感覚を担っており、腰の骨から出て表面近くまで走行しています。そのため、長時間の座位や筋肉のこわばりによって圧迫されやすく、腰の外側からお尻にかけて「ズキッ」とした痛みが出ることがあります。
よくある症状の例
- 腰やお尻の外側を押すとピンポイントで痛い
- 寝返りを打つとズキッと響く
- 温めると少し楽だが、動くとまた痛む
- 痛みがずっと続いていて、なかなか治らない
このような症状がある場合は、神経の通り道が癒着して狭くなっている可能性があります。
神経を圧迫している筋肉や膜をやさしくゆるめ、神経がスムーズに滑るようにすることで、痛みの軽減が期待できます。放置していると慢性化しやすいため、早めの対応がとても重要です。

腰痛改善の鍵は
「コアの再構築」
腰痛を根本から改善するには、コアを正しく機能させ、体の動きを整えることが重要です。
- 腹圧を適切にコントロールする
腹横筋・横隔膜・骨盤底筋・多裂筋が協調して働くことで、体幹が安定し、腰にかかる負担を軽減できます。 - APAを正しく機能させる
神経の働きを整えて、姿勢調整メカニズムを働かせることで、腰への負担を減らすことができます。 - 固定部位と過剰運動部位のバランスを整える
動かない部位(固定部位)を改善し、過剰に動く部位(過剰運動部位)への負担を減らします。 - 骨盤の動きを回復させる
骨盤の適切な動きを取り戻すことで、腰椎の過剰な負担を軽減し、全身のバランスを整えます。
腰痛の本当の原因は、単なる骨や筋肉の異常ではなく、コアの機能低下や姿勢制御の不具合によるものです。
改善のポイントを理解することで、腰痛の根本的な改善につながります。痛みを感じたら、腰だけでなく全身の動きを見直していきましょう。
